ダイヤのA、MAJOR、ONE OUTS……野球漫画で魔球“ナックルボール”はどう描かれてきたか

野球漫画でナックルはどう描かれてきたか

 ボールに回転をかけずにリリースすることで、不規則な変化を与える「ナックルボール」。精度が高ければ容易には打たれず、肩に負担がかかりづらいナックルボーラーには長い活躍も期待できるが、扱いが難しい球種であるだけに、日本球界でもメジャーリーグでも、使い手として成功した投手の数は限定的だ。しかし、“現実に存在する魔球”という、ある種のロマンを感じさせるナックルは野球漫画との相性がよく、その活躍を目にすることが多い。本稿では、野球漫画に登場したナックルボーラーを取り上げてみたい。

『ダイヤのA』ーー進学校の切り札

 まずは『ダイヤのA』に登場した長尾アキラ。長尾は桜沢高校に所属する3年生で、夏の西東京大会準決勝で強豪·稲城実業高校(稲実)と対戦する。桜沢高校は都内屈指の進学校であり、部活動よりも勉学に力を入れているため、準決勝進出したにもかかわらず学校や保護者からはあまり注目されていない。

 そんな桜沢高校が準決勝まで駒を進めた原動力は、エース·長尾が3年間磨き続けたナックルボールだ。稲実戦でも長尾は“禅のマインド”を心掛け、淡々とナックルを投げ続け、味方の幸運なファインプレーにも助けられ、序盤は稲実の強力打線に付け入るスキを与えない。

 とは言え、稲実打線を抑えることができても、攻撃面では成宮鳴の前に全く突破口を見出せない。その圧倒的なピッチングの前に、長尾をはじめ桜沢高校のメンバーは徐々にプレッシャーを感じる。そして、中盤に入り、長尾は平常心を失い、その隙を稲実打線に付け込まれ、気が付けば5回コールド負け。コントロールすることが極めて難しいナックルボールを扱うためには、精神力を要するということがわかる描写だ。

 とはいえ、11-0のスコアだけ見れば完敗であるものの、試合の経過を見れば、進学校が強豪校に食らいついた善戦と言える。長尾のナックルは試合を支配するほど強力な武器にはならなかったが、弱者が強者に一泡吹かせる秘策として機能したのだ。

『MAJOR』ーー“魔球”の脆い一面

 次に紹介するのは『MAJOR』に登場する阿久津。阿久津は名門·海堂高校野球部に特待生で入部し、絶対的エースである眉村と同じ“海堂三本柱”を任される野球エリートだ。初登場は主人公·吾郎擁する夢島組と特待生組の歓迎試合で、打ち込まれた渡嘉敷に代わっての登板だった。

 登板直後、いきなりタイムリーヒットを許すも、その後は精度の高いナックルを武器に押せ押せムードの夢島打線を沈黙させる。しかし、“握力を酷使する”というナックルの弱点を吾郎の相棒·寿也に見破られ、10球以上もファールで粘られ、ついには失投をホームランされてあえなく降板。厳しい初登場となった。

 次の登場は夏の神奈川県大会準々決勝の聖秀高校戦。リリーフとしてマウンドに立つが、今回も代わり端、いきなりフェンス直撃の同点タイムリーツーベースヒットを浴びる。藤井のでたらめなスイングが、不規則なナックルに合ってしまい、不運な失点を喫してしまう。球威がないために、変化の起動次第でこうしたことも起こりうるのがナックルボールだということだ。活躍の場面もある阿久津だが、ナックルボール=魔球の脆い一面を伝えている。

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