「人に変身願望がある限り、ヴィジュアル系は求められ続ける」 冬将軍が語る、文化としてのヴィジュアル系

冬将軍が語る、ヴィジュアル系の世界

洋楽とヴィジュアル系

――hideについては「hideとはいったい何者だったのか」という1章を使って考察されていますね。彼から洋楽を学んだファンが多かったとか。

冬将軍:90年代には、アーティストが影響を受けた音楽を遡って聴くという文化が色濃くありました。hideはラジオをやっていて、ナイン・インチ・ネイルズやストーン・テンプル・パイロッツなどの自分の好きな音楽を必ずフルコーラスでかけていたんです。その影響から、洋楽にハマったのは私だけではないでしょう。

 hideは掘れば掘るほど面白い人です。マニアックな音楽が好きな割に、自分自身が「ザ・ベストテン」を見て育ったから、歌謡曲も好きで「売れる曲を書こう」という意識があった。そのアンビバレントな感覚が、「ピンク スパイダー」のような独創的なヒット曲を生み出すことに繋がったのだと思います。

――彼が亡くなる10カ月ほど前の1997年に開催されたオールナイトクラブイベント「MIX LEMONed JELLY」の話も興味深かったです。これについても改めて教えてください。

冬将軍:今でいうSpotify O-EASTやO-WESTなどでやるサーキットイベントの先駆けですよね。青山近郊の5会場にインターネットを繋ぎ、タイムテーブルも出さずに開催するという、当時としては非常に実験的な試みでした。どの会場に誰が出るかはわからない。渡された地図とインターネット中継を頼りにお客さんたちは移動するんです。会場に設置された17インチのモニター画面に100人くらいが集まって見ていました(笑)。

 当時のインターネット普及率は9%、中継もたった数秒とかの短い内容だったので、hideがなにをやりたかったのか、正確に理解していた人は少なかったと思います。インターネットの時代が来ることをかなり早くから予見していて、スタッフ間のやりとりにもメールを使っていたそうですが、時代がまだ追いついていませんでした。しかし、当時の事務所社長さんは、hideの「いずれインターネットや携帯電話で音楽を聴く世の中になる」という言葉に後押しされ、hideの死後にWeb事業に従事。音楽配信からアーティストやタレントのファンクラブサイト運営事業を展開する株式会社エムアップを設立しています。もしもhideが在命だったら、ITの世界でなにかを成し遂げていたかもしれません。

――ヴィジュアル系の未来はどうなっていくと思いますか?

冬将軍:ここまで定着すると、もう一過性のブームとして消えていくことはないと思います。単なる音楽ジャンルではなく複合的な文化なので、色々な可能性はあるはずです。「Myspace」が流行った頃、オーストリアの人に好きなバンドを聞いたら「リヒャルト・シュトラウスとDIR EN GREY」と言っていたのですが、その人にとってはロックの入り口がDIR EN GREYで、マリリン・マンソンやKORNまでヴィジュアル系だと捉えていました。実際、海外では日本的な文脈とはまた違った感覚でヴィジュアル系バンドを組んでいるケースもあります。

――海外では「Visual kei」と呼ばれているんですよね。

冬将軍:英語では訳すことのできないジャパンカルチャーとして認知されています。ご存知のように海外では日本のアニメが大人気で、アニメの主題歌としてヴィジュアル系バンドの楽曲が使われていたために、ひとつの文化として受け入れられたようです。アニメの世界観と、ヴィジュアル系のキャラクター性がうまくリンクしているんでしょうね。正義の味方にはなれないけど、ダークヒーローへ憧れるみたいな変身願望とも上手くハマっているように思います。考えてみれば、日本のヴィジュアル系発祥の礎となったイギリスのゴシック・ロック自体が、『ジキル博士とハイド氏』や『吸血鬼ドラキュラ』などのホラーSF小説から影響を受けているので、非日常世界観の極みとでも言いましょうか、アニメとヴィジュアル系の相性が良いのは当然と言えるかもしれません。

 DIR EN GREYはメイクを落として海外進出したものの、向こうでの受容のされ方を知り、再びメイクをするようになりました。彼らはヴィジュアル系と自称していませんし、スタイルも昔とは異なりますが、自分たちがなぜ海外で人気なのか、何を求められているのかを理解したからこそ、今の世界的な活躍があるのでしょう。人に変身願望がある限り、それを投影しているヴィジュアル系はこれからも求められ続けると思います。

『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』発売記念イベント


◉〈知られざるヴィジュアル系バンドの世界〉の先へ 〜重低音が暴れん坊将軍で黒い薔薇が悪の草〜
https://www.loft-prj.co.jp/schedule/rockcafe/231441
出演者:冬将軍(『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』著者)、伏見瞬(批評家)、藤谷千明(フリーライター)
公演日:2022年11月5日(土)
会場: 東京 新宿・ROCK CAFE LOFT is your room
OPEN/START:18:30/19:00
ADV/DOOR:¥1,500/¥2,000(要1オーダー)
※配信予定

◉独壇場B-T〜或いは90's〜 × 知られざるヴィジュアル系バンドの世界 DJ&座談会
出演者 DJ:浅井博章(FM802)/ DJニッチ(V系イベント【Vニッチ】主催)
ゲスト:冬将軍(『知られざるヴィジュアル系バンドの世界』著者)
公演日:2022年12月1日(木)
会場: 大阪 南堀江knave
OPEN/START:18:30/19:00
ADV/DOOR:¥2,800/¥3,300(+1D ¥600)

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