【アメリカの最新ブック事情】第2回「独立系書店」
「サワー・チェリー・コミックス」(Sour Cherry Comics)
カストロ地区の東側に隣り合うミッション地区。「ミッション」の名前が示しているように、元々は宣教を目的とした人たちが移り住んだ土地である。最近はテック企業に勤める人々にも人気だが、少し前まではチカーノやラティーノ、アーティストが多く居住していたエリアでもある。多国籍なレストランやアートギャラリーがひしめき、その地に積み重なった文化を見て取ることができる。
ミッション地区の北端に、2022年春にオープンしたコミック書店「サワー・チェリー・コミックス」(Sour Cherry Comics)。チェーリー柄のロゴがキュートなお店だが、見逃せないのは「サワー=すっぱい」。かわいいけれど、かわいいだけじゃない。店主、レア・モレットさんに話を聞いた。
―お店を始めた理由を教えてください。
モレット:自分がレズビアンなので、ナード・カルチャーを楽しみたいクィアな女性が心地よく感じられて、棚に並ぶ本に自分の存在を見出せるような、かわいくてフェミニンな場所を作りたいと思ったんです。
―オープンしてみて、実際にお店に来てくれるお客さんはどうですか?
モレット:客層の中心はやはりクィアな女性です。それから、コミックを読んで育ったゲイ男性もよく遊びに来てくれます。ティーンエイジャーや子どもたちも店を愛してくれていますね。彼ら彼女たちは上の世代よりよく漫画を読みますし、ぬいぐるみやおもちゃなども買っていきます。
―漫画、中でもBLや少女漫画がたくさん置かれていますね。
モレット:私がティーンの時から、漫画にどっぷり浸かってきた影響です。BLや少女漫画の良さは、バラエティに富んだ、ユニークで興味深いストーリーにあると思います。学校を舞台にしたロマンスはもちろんいっぱいありますが、その枠にはまらないものも同様にたくさんあります。
-最近好きな漫画作品はありますか?
モレット:音楽を題材にした作品に目がないので、『ギヴン』『付き合ってあげてもいいかな』がお気に入りです。最もユニークだと思った百合ものは『対ありでした。〜お嬢さまは格闘ゲームなんてしない』ですね。お客さんにもお薦めしています。
―「サワー・チェリー・コミックス」はまだ生まれたばかり。これからが楽しみですね。
モレット:先ほど言った当店のお客さんには、あらゆる年齢のトランスジェンダーの女性や男性、ノンバイナリーの人々が含まれていますし、大きな客層を形成してくれています。そういう意味でも、トランス・フレンドリーな空間をもっと目指していきたいです。トランスジェンダーのキャラクターを取り上げたグラフィックノベルや本、コミックスももっと仕入れていきたいですね。
―最後に、日本の読者にお薦めをお願いします。
モレット:DC作品は今、手に取る価値があると思います。中でも『Poison Ivy』シリーズがお薦めです。それからファースト・セカンド・ブックス(First Second Books)から、素晴らしいグラフィック・ノベル作品が出ていますよ。『Bloom』『Bubble』『On A Sunbeam』はごく一例ですが、ぜひ読んでみて欲しいです。
独立系書店と未来
とりわけ人と会えないコロナ禍、サンフランシスコ・ベイ・エリアにある数多くの個性豊かな書店へ、頻繁に足を運んだ。この地に軒を構える書店に共通して言えるのが、あらゆる人にそのドアを開いていること、分け隔てのなさである。
今「ファビュロサ・ブックス」や「サワー・チェリー・コミックス」のような新しい書店が、多様な声をさらに拾い上げている。誰もが、自分が必要としている言葉や物語に出会える書店文化、ひいては出版文化へと繋がっているのではなかろうか。
こういった文化こそが、アメリカを未来を生きる人々の考え方を培っていくだろう。全米に広がりゆく特色溢れる独立書店が、この先どう育っていくのか楽しみだ。
書店情報
Fabulosa Books
489 Castro St,San Francisco, CA 94114
営業時間:日〜木 10:00〜20:00、金 10:00〜21:00、土10:00〜22:00
https://www.fabulosabooks.com/
Sour Cherry Comics
3187 16th St,San Francisco, CA, 94103
営業時間:月 11:00〜15:00、火 16:00〜20:00、水〜土 11:00〜20:00、日 12:00〜18:00
https://www.sourcherrycomics.com/