住野よる、最新作インタビュー「分かってたまるかっていう気持ちが自分の中にやっぱりある」

住野よるインタビュー

 2015年に『君の膵臓をたべたい』でデビューして以来、『また、同じ夢を見ていた』『青くて痛くて脆い』などの人気作を生み出してきた住野よる。9作目となる最新作『腹を割ったら血が出るだけさ』(双葉社)は、「愛されたい」という感情に囚われた女子高生・茜寧(あかね)を中心に、自分に偽りなくあるがままに振る舞うことを美徳とする青年・逢(あい)、自身のストーリーを作り続けるアイドルの樹里亜、他人の非を見つけることでしか自分を肯定できない男子高生の竜彬(たつあき)など、心の内に複雑な思いを秘める若者たちの姿を描いた青春群像劇だ。ある日、茜寧が「自分の物語だ」と信じる小説のキャラクターにそっくりな逢に出会ったことをきっかけに、彼らの日常が少しずつ変化し始めていく――。 

 どんなことを考えて本作を書き上げたのか。そして、刊行から1カ月以上が経ち、読者からの反応を受けて何を思うのか。その胸の内を語ってもらった。(イワモトエミ) 

個性的なキャラ造形の裏側

――アイドルの舞台裏の描写が生々しいくらいにリアルです。スペシャルサンクスを見ると現役アイドルの方々にも取材されていますが、アイドルを扱う話を書こうと思ったのはなぜでしょう? 

住野:アイドルの話を書こうと思っていたわけではないんです。スペシャルサンクスにも載っている綾称(あやな)さんと高井つき奈さんのお二人にお会いしたことがきっかけで、お二人をベースにした登場人物を描きたいと思ったのが「ハラワタ(住野さん命名の『腹を割ったら血が出るだけさ』の略称)」の原点。そこから、アイドルグループのメンバーである樹里亜と朔奈という登場人物が生まれました。 

 綾称さんと高井さんの話を聞いて、彼女らが抱いているプロとしての意識や気持ちって、実は一般の人たちも持ちうるものだなと思ったんです。それこそ、表の自分を作ることって多少なりとも誰にでもありますよね。そう考えて生まれたのが茜寧というキャラクターです。 

――アイドルの話だけになってしまうと、ちょっと別世界の話のような気もしちゃいますが、普通の女子高生である茜寧がいることで、「表の自分」と「本当の自分」の話がより身近になってきます。でも、一見ふつうに見える茜寧も心の内はめちゃくちゃ複雑なキャラですよね。 

住野:茜寧は、住野よるのことが嫌いな女の子という着想から生まれました(笑)。『膵臓(君の膵臓をたべたい)』『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』が顕著なんですけど、僕はけっこう「ありのままの自分で生きるべき」「自分の本当の心に従うべき」ということを書いてきたんです。でも、自分で書いておきながら、そういう考えに対して「うるせー!」って思う自分もいるんですよね(笑)。そういうことを言われたら「そんなことできたら、やってるわ!」って思う子を描こうと思って。 

 「ハラワタ」を書き始めた3年前にも、当たり前のように「分断」があって。自分たちが正しい、違う意見の人たちは間違っているというような趣旨の発言をSNSなどでもよく目にするようになった気がしました。そんな中で、住野よるのことを好きな人、好きになってくれそうな人のことだけを描くのはその人らと同じで何だかずるいなと思ったんです。自分のことを嫌いな子の生活にも幸せがあることを願えたらいいなと思って、茜寧が生まれて、そこから連なるように竜彬も生まれていきました。 

――竜彬も一癖も二癖もあるキャラですよね。アイドルである樹里亜の裏の顔を暴くことが生きがいになっていて。 

住野:竜彬は、自分が理解できない人のことを書こうと思ったんですよね。僕、有名人のSNSに誹謗中傷を送り続ける人の気持ちって全く分からないんです。でも、その自分が全く分からない人の気持ちを理解することに努めてみたいと思って竜彬を描きました。 

――でも、自分自身が理解できない人を描くのって、苦しい作業じゃないですか。 

住野:いや、そんなことないんですよ。めっちゃ楽しかったです。自分はこんなことしないから、ロールプレイみたいな感じで、この子は何を行動原理にしているんだろうと考えるのがすごく楽しかったですね。 

――竜彬を描く際は、やっぱり有名人を攻撃するようなSNSのアカウントを参考に? 

住野:そうですね。アイドルのアンチって、びっくりするようなひどいことを言うんですよ。子どももいるような大人が二十歳前後の女の子に罵詈雑言を送りつけていたりして。竜彬が高校生なのは、高校生ならまだ引き返せる、自分のために生きてほしいと思ったからです。 

――本作で裏表のないキャラとして登場するのが逢です。逢は心と振る舞いにズレがない、茜寧の憧れのような存在ですよね。 

住野:作者の視点から言えば、逢は僕が好きなバンドに抱くような感情をそのまま形にしたキャラクターなんですよね。僕は好きなバンドのライブに行くと、めっちゃ楽しいんですけど、同時にすごく苦しくなってしまう。曲やMCですごくいいことやカッコいいことを言ってくれて大好きなんだけど、「僕はあなたたちが言うようないい人間じゃないし、そういう人間にはなれない」とも思ってしまって、悲しくて苦しくもなるんです。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる