推しと恋する漫画3作品。推しが身近な存在に!? シンデレラストーリーから清々しい推し愛、そして待ち受ける戦慄物語

推しと恋する漫画3作品。推しが身近な存在に!?

 みなさんは、『推し』いますか。推しがもし、あなたの職場や住まいに、身近な存在になったらどうしますか。

……はい、筆者は手を合わせたまま後ろにぶっ倒れて尊死します。

 日頃からわりと尊死に慣れている(?)筆者だが、さすがに推しと同じ空気が吸える世界線とか、妄想しただけで動機息切れして、即ヒュッとなってしぬ。ましてや恋なんて……。そんな夢のような? でもやっぱりその一線は踏み込んではいけない? 変わってしまう自分が怖い? 推しと恋する漫画が存在する。今回は、筆者がおすすめする3作品を紹介していこう。

 3作品はそれぞれにストーリー展開や、ヒロインと推しとの立場などは違うが、とにかく自分の推しと置き換えていろいろ妄想してみてほしい!

『フォロワーの中に推しがいます』ななお

ななお『フォロワーの中に推しがいます』(リブレ)

 推しと恋する作品を読むためには、まずは心の準備が必要だ。いきなり長編の衝撃的な展開の作品を読んだら心臓が止まりかねないので、まずはこの作品から。2巻完結と揃えやすくちょうどいい。ストーリーは、駆け出し少女漫画家の森しのぶと若手2.5次元俳優の鏑木日向とのひょんな出会いから。そのきっかけは、しのぶが連載している作品に熱い感想が届いたことからはじまる。

 「あ~推しと街中でバッタリ会ったりしないかな~」なんて、ベッドでゴロゴロしながら何十回、何百回と思ったことか(実は推しを街中で見かけて固まってしまったことがある筆者)。それがこの作品では、最推しとまさかのきっかけで出会い、その後も奇跡的な場面で遭遇するという夢のようなシンデレラストーリー。推しとバッタリ出会ってしまい、半径1m圏内に存在するだけでもどうにかなりそうなのに、目を見てやりとりをしてふと手が触れてしまうとか、どんだけ前世で徳を積んだのかと思ってしまうよ(だんだん書きながら自分が気持ち悪くなってきた)。ただ、かわいいかっこいい、手足長いし顔ちっさ、眩しくて直視できない、推しが自分の作品を好きだと言ってくれるなど尊いハッピーなことばかりではない。最推しと繋がってしまったがゆえの苦悩も出てくる。

 しのぶにとっては、仕事でつらいときにたまたま出会い、励ましてもらった、もう一度頑張ろうと思わせてくれた、仕事を頑張ってきてよかった…と思える推しの存在。だが、推しと初めて出会ったときに、自分を偽り・隠しごとをしてしまったことで、本当にこのままでいいのかと悩む。推しと恋愛したいなんて思っていなかったし、こんなに近づいちゃったら歯止めが利かなくならないか、陰から見守るだけで充分……。だけど、素の推しを知りたい、近くにいても恥ずかしくない自分になりたいという本音も見え隠れする。2人の葛藤や、やや不穏な空気が流れる場面もあるが、自信を持ちたいと前向きに歩き出すしのぶを、読者として応援したくなってくる作品だ。

『ササダはオカネで推しを抱く』なしのありこ

なしのありこ『ササダはオカネで推しを抱く』(フューチャーコミックス)

 超多忙な日々を送る社畜オタクの笹田の唯一の救いは、VTuber天野アマオの配信だった。赤スパ(高額投げ銭)やコメント読み、リスナー参加型のゲーム実況などの一方通行ではないやりとりに次元を超えた癒しを感じ、日々頑張っていた。そんな彼女に片想いするのは、行きつけの喫茶店で出会った、口を開けば嫌味ばかりが出てしまう永塚。彼女とアマオに複雑な思いを抱いているのには、ある訳があった。

 世間的にも認知度もあがってきたVTuber。実は筆者の推しもLive2Dを実装して配信もしているので、コメント拾ってもらえたり、スパチャ投げたり、グッズを買ったりして自分が稼いだお金で推しを支えている笹田に近い感覚がある。作中にも出てくるが、VTuberの良さは、その声だけでなく、画面のなかで本当にその人が存在していると感じること、目線や表情、生きている感をかみしめられることだ。ちなみに筆者はゲームに集中しすぎてお口ぽかんとなっていたり、コメント画面を見るときチラ見したり、考えごとをするときの斜め上を見る推しの姿が好きだ(笑)。笹田もアマオの推せるところを熱く語っていて、「わかるわかる」と頷きまくってしまった。

 VTuberを推している人は同じようなことを考えるかもしれないが、筆者も周りには推しのことを言いにくく、ひとりでこっそり眺めて楽しみたいタイプなので、作中の笹田の気持ちがよくわかる。仕事などで心に余裕がなくなってくると、いい歳をしてこんな自分でいいのかと思い悩むことも。ただ、永塚の「どんなことでも自分が楽しんでやっていることを恥じる必要なんてない」というセリフにはドキリとさせられる。

 女性目線で笹田の気持ちに寄ると「わかるわかる!推しが今日も尊い!そのために仕事頑張る!」って感じだが、男性目線で永塚の気持ちに寄ると、永塚は笹田とこんなに近くにいても、なんだか次元が違うというか、アマオしか見えていない笹田が遠くにいるような切なさ、寂しさがあって。好きな人が大切にしているものを自分が壊すわけにはいかないと、アマオに嫉妬したり葛藤したり、そんな永塚に同情する。推しを通して、双方目線で読み応えがある作品だ。

『ガチ恋粘着獣 ~ネット配信者の彼女になりたくて~』星来

星来『ガチ恋粘着獣 ~ネット配信者の彼女になりたくて~』(コアミックス)

 とある人気配信者3人組(スバル、コスモ、ギンガ)と、それぞれのメンバーにガチ恋するファンの女性が登場。予期せぬ出会いから、本気で推しと付き合いたいと願う、関係の発展を願う。だが、ファン同士の承認欲求や暴走する想いで争い、迷惑をかけてしまう、異常な粘着行動。それはまるで理性などがない生き物”獣”のようだ。

 これまで紹介した2作品は、わりと推しとハッピーな感じやコメディタッチなストーリー展開がメインであった。しかし、この作品はコメディとして楽しめる部分もありながら、一歩踏み外すと大変なことになりそうなぞわぞわ感がまとわりつく。推しへの想いや愛が嫉妬や憎悪、独占欲、狂気へと変わる、ちょっと背筋がヒヤッとする作品だ。「人の振り見て我が振り直せ」という言葉があるが、「人の推し方みて我が推し方直せ」と本気で思った。ここまでやったらダメだとは、頭のなかではわかっている。みんなルールや常識などを守りながら、推しに迷惑をかけたいわけじゃないし、幸せになってほしい、楽しく過ごしてほしいという気持ちがあるのは嘘じゃないだろう。ただ、ひょんなことからその他大勢のファンと一緒にされるのは嫌だ、一歩前に出たい、あわよくば……と、どんどん底なし沼にハマって抜け出せなくなってしまうような話がいくつか出てくる。

 筆者の推しも配信者なので、作中のファン女性同様にいいねやコメントを読み上げてもらったときの幸福感やもっと……という気持ちは想像がつく。さらに、スパチャの金額でマウントをとるとか、このファンはいつもコメントを読んでもらっていいなと気になる、配信をリアタイしたいがために時間を捻出するのに必死になってしまう…など、実際自分にも当てはまりそうなことばかりだ。『ほんとにあった怖い話』の推し活編みたいな雰囲気がじわじわとくる。現在漫画ではスバル編、コスモ編、ギンガ編ときているが、キャラごとに増す面白さがある。怖いもの見たさで、女同士のマウントや承認欲求のドロドロ、不祥事や修羅場好き、リアコ・ガチ恋勢に興味がある人には読んでもらいたい作品だ。

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