『SPY×FAMILY』はなぜオシャレに見えるのか? インテリアへのこだわりを読む

『SPY×FAMILY』インテリアへのこだわり

 2022年春季アニメは『SPY×FAMILY』は“覇権”を取ったといっても過言ではないだろう。本アニメの第2クールも放送される2022年秋季アニメにおいて、期待度ランキング(中間発表)では男女別の集計で『SPY×FAMILY』がそれぞれ1位を獲得している(1)。

 『クレヨンしんちゃん』や『あたしンち』といった国民的作品と同様に家族を題材としたコメディ、そして作中に漂う西洋的な雰囲気は本作が幅広い層に支持された背景にあるだろう。西洋的な世界を舞台としていることと共に、コミックスの表紙に登場するミッドセンチュリー家具の椅子も作品のオシャレな雰囲気をつくり出している。物語の世界観を築く要素としても描かれる椅子について、本稿で解説したい。

第1巻「LC2」

 コミックス第1巻の表紙で黄昏が新聞を読みながら腰を下ろすソファは「LC2」であることが見受けられる。「近代建築の三大巨匠」としても知られるル・コルビジェが1928年に発表したソファであり、ニューヨーク近代美術館にも所蔵されているものだ。

 ル・コルビュジエは20世紀を代表する建築家であり、家具だけでなくフランスのフランシュ・コンテ地方に建てられたロンシャン礼拝堂、フランスのリヨン郊外に建てられたラ・トューレットの修道院の設計にも携わっている。

 1997年4月から発行された第8次紙幣の10スイス・フランにル・コルビュジエの肖像が描かれていることからも、彼の残した功績の大きさは想像できるであろう。

 そんなル・コルビュジエが残したLC2は、デザイン家具の歴史上で大きな功績を残した作品として評価されている。西国で最も腕の立つ謀報員と言われる黄昏がLC2と共に描かれることは、これから黄昏が歴史に刻まれるような功績を残すことを示しているかもしれない。ちなみにヨルやアーニャたちが暮らす家に置かれたソファもLC2となっている。

第2巻「マシュマロソファ」

 コミックス第2巻の表紙でアーニャ(とキメラさん)が座っている椅子は「マシュマロソファ」だ。こちらは建築家や編集者としての顔をもつジョージ・ネルソンらがデザインしたソファである。

 ジョージ・ネルソンと彼のデザイン事務所で働いていたアーヴィング・ハーパーのもとに持ち込まれたのは、円盤状に射出成型されたプラスチック。それをふたりはスチール製のフレームに取り付けることでマシュマロソファを生み出した(2)。

 マシュマロソファを生み出したジョージ・ネルソンは「電撃的なインスピレーション――孤独な人間が今まで想像もしなかった事実に気づく瞬間」がいくつもあったことを描き記しており、編集者やデザイナーとしての数々の成功はひらめきから生まれてきたことを明かしている(3)。彼の残したフレーズは黄昏をはじめとする家族、ダミアンといった友人たちの力となるために思考し、ひらめきが浮かぶ(そのひらめきが力にならないこともあるが……)アーニャの姿とも重なる部分は多いだろう。

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