直木賞受賞作・窪美澄『夜に星を放つ』が描く“ほのかな光”ーー珠玉の短篇集を読む

窪美澄『夜に星を放つ』レビュー

 第四話「湿りの海」は、離婚した妻が娘を連れてアメリカに行ってしまってから、前に進めないでいる沢渡の物語。隣に引っ越してきたシングルマザーと親しくなり、ようやく蹲るような日常に変化が訪れるのだが……。この作品で前進しているのは、沢渡の周囲の女性たち。主人公は結局、今までの場所に留まり続ける。他の話とは少しトーンが違い、短篇集のいいアクセントになっていた。

 そしてラストの「星の随に」は、父親が再婚し、新たな家族との生活に戸惑いながら、なんとか受け入れようとする小学生の少年・想が主人公。弟が生れたが、母親の渚は子育てに疲れているようだ。その母親によって家から閉め出された想は、別の部屋の住人の佐喜子というお婆さんに助けられ、閉め出しが解除されるまで世話になる。

 想という少年の言動が健気で、だから佐喜子が手を差し伸べてくれたことに、ほっとした。とはいえ、渚も悪人というわけではない。作者は、生活の中で生まれた亀裂を、優しく繕ってくれるのだ。また、東京大空襲を体験した佐喜子が、それを絵に描いているという設定が、物語に一段と深い味わいを与えていた。

 さて、本書に収録されているのは、それぞれ独立した話だが、共通点があるのだ。どれも〝星〟が、ストーリーの中に織り込まれているのだ。これにより全体の統一感が生れている。先のインタヴューの引用にある〝ほのかな光〟は、いうまでもなく人の心のことだ。それを星々が、シンボリックに表現しているのである。

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