『鎌倉殿の13人』で注目の大姫、なぜ20歳で亡くなった? 直木賞候補『女人入眼』が描く、女たちの生き方

『女人入眼』が描く、女たちの生き方

 自らを護るため多くの者たちを粛清していく頼朝を警戒するのみならず、政子の感情を損ねると命が危ういという認識をも広まっていく。そんな政子の強大な母性に庇護されてきたはずの大姫がどんな決断をするのか。結果はどうあれ虚ろな目をして心を閉ざしていた大姫が発する彼女なりの意思は「吾妻鏡」にも「愚管抄」にもない、歴史に残っていないゆえに許される自由な発想が渾身で胸を打つ。周子との触れ合いで大姫が感情を出していく場面は読んでいるほうも心が解放されたようになる。

 ただし、政子を一方的に断じるわけでもないところがこの物語の面白さのひとつである。周子は政子を恐れると同時に、“扇で顔を隠し、本音を腹に収めて野心を抱く”宮中の女とは違って“扇と御簾も取り払われ、政子は大きな声で語り、野心も力も隠さない”そんな政子をはっきりと自分の意志で行動する人物として捉えていく。

大仏は眼が入って初めて仏となるのです。男たちが戦で彫り上げた国の形に、玉眼を入れるのは、女人であろうと私は思うのですよ。

 序盤、「愚管抄」を描いた慈円が政子に語る言葉がタイトルにもなっているように、物語を真っ直ぐに貫いていく。政子の視点によって書かれた「吾妻鏡」と対極にある「愚管抄」の著者の言葉を物語の軸にしているところも作者のジャーナリスティックな怜悧さを感じて小気味いい。その見聞は香りや風景などのたおやかな描写にも生かされている。

 義高の身代わりだったにもかかわらず生き残ってしまった海野幸氏が女たちの物語にいいアクセントになっている。周子と海野の出会いでは、鎧は重いが、女の正装の裳も鎧ほどではないが重いという事実を周子が噛み締めながら、武士と女房が並んで歩く姿にも『女人入眼』の想いが込められているかのようだった。

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