【ラノベ週間ランキング分析】『春夏秋冬代行者 夏の舞』や『わたしの幸せな結婚』で推しカップルを探せ!
宝島社の「このライトノベルがすごい!2022」で総合新作部門1位となった暁佳奈『春夏秋冬代行者 春の舞』に、待望の続編となる『春夏秋冬代行者 夏の舞』(電撃文庫)が上下巻で登場。人気ぶりを反映して、Rakutenブックスのライトノベル週間ランキング(7月4日~10日)で上巻が9位、下巻が11位にランクインした。
日本によく似た大和という島国には、春夏秋冬の四季を代行者として司る4人の現人神がいて、それぞれに護衛官とペアを組んで季節の訪れをもたらしていた。ところが、10年前に春の季節を担っていた花葉雛菊がさらわれてしまう事件が発生。その間、島国に春の季節が来なかったが、雛菊が10年ぶりに戻って来たことから、島国に四季がめぐるようになった。
『春夏秋冬代行者 春の舞』では、雛菊の帰還に端を発して代行者たちを狙う事件が勃発。雛菊とは幼い頃からの知り合いで、彼女への深い思慕を抱いている冬の代行者の寒椿狼星が氷結の能力を繰り出したり、秋の代行者の祝月撫子が生命を操る能力を発揮して、事件に巻き込まれて死んだはずの夏の代行者、葉桜瑠璃を蘇らせたりと、異能を使ってのアクションが繰り広げられた。
そうした中に、雛菊と狼星がかつてのような仲を取り戻したり、雛菊の護衛官をしている姫鷹さくらという女性と、狼星の護衛官を務める寒川凍蝶との関係が復活しかかったりといった具合に、カップルたちによるラブストーリーも織り交ぜられて、推しキャラというより推しカップルを見つけて応援したいという衝動にかられた。
フワフワとしたところがあって守ってあげたくなる雛菊と、名前のとおりに猛々しく権能のようにクールな狼星のカップルには、優しい気持ちを向けたくなる。すべてをなげうって雛菊を10年間追い続けた気丈なさくらと、その間ずっとさくらを見守り続けた凍蝶のカップルには、もっと近づけと叱咤したくなる。
秋の代行者の撫子は、まだ幼いながらも護衛官の阿佐美竜胆が大好きなのに、竜胆は主従の関係と割り切ってその思いに気付かない。こちらは健気な撫子に感情を添えてエールを贈るパターンか。
そんな関係が成立している春秋冬の代行者と護衛官とは違って、夏は代行者の葉桜瑠璃と護衛官のあやめが双子の妹と姉という関係にあるところが異色。なおかつ『春の舞』で起こった事件で、2人とも代行者になってしまったことから、島国にいろいろと動揺が広がって、それが新刊『夏の舞』で起こる事態へとつながっていく。
代行者たちの権威を崇め奉りながら、周辺で権力を誇示したい伝統的保守と、代行者たちにもっと自由に振る舞ってもらいつつ、因習を打破していきたい革新的リベラルの対立という、昨今の社会や政治の情勢にも似た状況。謀略がめぐらされては代行者たちの命に危険が迫る。
そうした動きに対抗する勢力として、四季とは別に日の出と日の入りを担う「巫の射手」という存在が登場する。この「巫の射手」のうち、「黄昏の射手」として日の入りを受け持つ巫覡輝矢と、彼の近接保護官を務める荒神月燈という女性のカップルが新登場。妻が自分の守り人と家出して、落ち込んでいた輝矢のところに近接保護官として派遣された月燈は、最初は輝矢に疎んじられるものの、精一杯に仕えることでだんだんと関係を深めていく。
妻に逃げられやさぐれて投げやり気味になっている男性と、キリリとして武芸に長けた女性という輝矢と月燈のカップルにもそそられるところ大。この輝矢の過去に起こった事件にも謎が隠されているのだが、詳細は『夏の舞』を読んで確かめよう。
『夏の舞』というだけあって、中心にあるのは、はからずも2人が代行者となってしまった瑠璃とあやめが、それぞれに自分の置かれた立場というものについて悩み、苦しみながら、幸せについて考えていくこと。メガネの美少女姉妹というカップルとして愛で続けたい一方で、それぞれが思いを寄せる婚約者との関係も成就して欲しいといった複雑な気持ちにさせられる。
暁佳奈が描いたカップルは、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の戦争しか知らなかった少女ヴァイオレットと、彼女を戦争に巻き込んだ責任を感じ続けるギルベルト少佐も魅力的だった。こちらはこちらで多彩なパターンのカップルを味わい尽くしたくなるシリーズ。ダークホースは老獪なところを見せる雛菊の異母系と、彼に仕える幼い少年のカップルか?