サッカー選手から文豪まで “ひろゆき論破無双”で振り返る、実在人物の異世界転生作品

 野田宏原作、若松卓宏作画の漫画『異世界失格』(小学館)の中で、愛人と心中しようとしていたところをトラックに跳ねられ、異世界に飛ばされたある文豪の場合も、キャラクターとしての持ち味を存分に発揮して、見知らぬ場所でも飄々と生きていく。いや、当人はすぐにでも死にたいのかもしれないが、そうした死の陰を漂わせて愛を語るニヒルでシニカルな人物を、放っておけないと周囲が思い、センセーと呼んで生き延びさせているのかもしれない。主人公のモデルになっていると思われる、作家の太宰治が今なお熱烈な支持を受けているのも、そうした作家性と作品性に惹かれる人たちが少なくないからだ。

 とある王国では、結婚相手を選ぶよう父王から迫られたていた王女の前に現れ、自分が本当に望んでいることは何かを自分の心に問いかけろと言って王女に惚れられ、一緒に心中したいとまで言われる。圧倒的な力を持つ憤怒の魔王の娘が相手でも、退かず前に立って「悲しい目をしている」と心を見透かしたようなことを言う。実在した作家本人とまったく同じかは定かではないが、一般的にそうと見られる破滅型で刹那主義のキャラクター性が、異世界ではプラスに働くことが見て取れる。

 世に文豪は大勢いても、ここまで適応できるのは太宰治だけだろう。だからこそ佐藤友哉の小説『転生! 太宰治 転生して、すみません』(星海社FICTIONS)では現代に、高橋弘のライトノベル『太宰治、異世界転生して勇者になる~チートの多い生涯を送ってきました~』(オーバーラップノベルズ)では異世界に転生しても、しっかりと生き延びいろいろと活躍してのけるのだ。

 唯一無二という意味では、名だたる戦国武将にあって織田信長も時代や世界を超えて、しっかりとした活躍を見せてくれる存在だ。平野耕太の漫画『ドリフターズ』(少年画報社)で本能寺の変の現場から、異世界へと召喚された信長は同じように召喚された島津豊久や那須与一らを仲間にし、現地の材料や技術で火縄銃を量産してその世界の人類殲滅を企てる「黒王」を相手に戦にした戦いを繰り広げる。

 森田季節の原作を、柴乃櫂人キャラクター原案で西梨玖が漫画にした『織田信長という謎の職業が魔法剣士よりチートだったので、王国を作ることにしました』(ガンガンコミックスUP!)では、織田信長という存在が一種の職業となって異世界の剣士にスキルとして“転移”し、歴史の上で織田信長が行った振る舞いをなぞることで強くなっていく主人公が登場する。織田信長だけに覇権をとってからの非業の運命までもがチートに含まれるのか。転移・転生からの人生を安易なものにしない仕掛けとして気になる部分だ。

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