自分を好きになるって難しいーーこじらせ脱却コメディ漫画『やわ男とカタ子』
小さくて華奢でふわふわした淡い色のスカートに身を包み、柔らかな笑顔が似合う女性を街中で見かけると筆者はつい目で追ってしまう。“女らしさ”や”男らしさ”というのは古い感覚だが、それはまた別として、自分にはないものを羨ましく思ったことがある人は少なくないと思う。「自分なんて」と卑下してしまうことも、珍しくはないだろう。だが、それが積み重なってしまうと、知らないうちに自分自身を苦しめてその負のループから抜け出せなくなってしまうかもしれない……。そんなことを考えさせられるのが、長田亜弓によるラブコメ漫画『やわ男とカタ子』だ。
本作の主人公は、「カタ子」こと、藤子(28歳)。自分を「でかくてかたくて 眼光鋭い たくましそうな女」だと思っている。合コンで藤子の隣に座るのは、「小さくて弱くて何も知らないって顔した やわらかい女」と藤子が思う、正反対なタイプの幼馴染・親友の久美である。合コンでの藤子は緊張のあまり、久美のようにニコニコと笑顔で楽しく異性と会話することができず、自分には「笑いしかない」と、いままで彼氏がいたことがない“喪女”(※モテない女性を指すネットスラング)であると自虐ネタをぶっこんでしまう。そして「やっぱ私 こういうの向いてないんだわ」とトイレで落ち込むのだ。
合コン解散後、同じ方向に帰る男性・小柳(29歳)に誘われ、その流れから2軒目に入ることに。自分のことを”女”と思えない藤子は、ここでも自虐ネタを中心に無難な会話でやり過ごそうとする。そこで、ふとオネエ口調が出てしまった小柳に、藤子は驚く。
「小柳さんてオカマだったの!!?」
「オネエって言え!!!」
このやりとりで一気に壁は壊れたのか、小柳は「ちょっと言わせてもらうけどね!!」と今日の合コンでの藤子の態度や卑屈さを説教。そして、藤子を苦しめているのは藤子自身であると核心をつく。指摘されて耐えられなくなった藤子は思わず店を飛び出し帰ろうとするが、言い過ぎたと後から追ってきた小柳に「あんたを泣かせた責任とったげる 喪女脱却よ藤子!」と手を掴まれるのであった。
本作はそんなこじらせ女の藤子が、合コンで出会ったちょっとおせっかいな“オネエ”に、恋愛以前に性根から叩き直される奮闘ラブコメディである。自分を”女”と認められない藤子のように、自分に自信が持てない自分が好きになれないと思う人にも読んでほしい作品だ。
なんでも卑屈になってしまう、“こじらせ”からの脱却
藤子のようにまで極端ではなくとも、自身の恋愛対象にとって好ましいと思しき条件を勝手に作り、自分にもルールを課して身動きが取れない、自分で自分の首を絞めてしまう状況はあるだろう。だが、当の本人はそのことに気づかなかったり、わかってはいても抜け出せなかったりする。そういうときに、この作品を読みながらどこから考え直していけばいいのか、自然と自分のなかにあったメンタルブロックを少しずつ解除することができるのではないかと思う。
まずはこじらせ女脱却のため、自分がモテない女として終わっている原因は何だと思うのかと、小柳は藤子に問う。そこでも出てくる藤子の卑屈っぷりに「ハイ残念ハズレーー」と根本的なところの原因をはっきりと伝える。ここまでズバズバと言っている小柳だが「だいじょうぶよ 藤子 あんたは変われる」と藤子が自分自身と向き合うために、優しくたのもしい一言もある。ほぼ初対面なのにここまで言ってくれる人が、果たしているだろうか? 実際にズバズバ言われたら、筆者のメンタルは粉々になりそうだが凝り固まってしまった考えをほぐすためには、第三者からのこのくらい清々しいアドバイスのほうがいいのかもしれないと思った。
本作では第一歩として、外見から変わることからはじめる。ところが、藤子のいつもの卑屈さが出てしまい、久美と言い争いになり10年以上も溜め込んでいた本音をぶつけてしまう。思いを吐き出したことで、自分の本当の気持ちと嫌でも向き合うことになる藤子。小柳はそっと寄り添い、自分にも黒歴史があることや藤子は昔の自分に似ていることを話す。自分の性に違和感と罪悪感しかなかった頃のエピソードだ。そして久美にも、彼女なりの切実な悩みや知られざる努力があったことがわかり、藤子は卑屈な内面を少しずつ変えていくことになる。