転生者×タイムトラベラー!? トリッキーな設定に見えて真摯に「人生」と向き合う、良質なSF漫画『雪と墨』

転生者×タイムトラベラー!? トリッキーな設定に見えて真摯に「人生」と向き合う、良質なSF漫画『雪と墨』

 「雪と墨」とは、真っ白な雪と真っ黒な墨のように、二つの物事が正反対であること、違いが大きすぎて比較にもならないことのたとえである。今回はそんなタイトルがつけられた漫画の魅力をお伝えしたい。

 36歳の常盤(ときわ)と、そのイトコで同居人でもある24歳の浅葱(あさぎ)。2人には、誰に言っても信じてもらえないだろう、秘密があった。

 常盤にとって36歳の誕生日。酒に酔った常磐は、涙をこぼしながら浅葱に「前世と現世を合わせた4回分のすべての記憶がある」、つまり”転生者”であることを打ち明ける。それに対して、浅葱は、ケロッとした顔で「実は俺の正体…タイムトラベラーなんですよ…!!」と一言。その反応に、常磐は「信じてもらえなかった――」と手を震わせるが、その裏で浅葱は「…口が滑った…」と頭を抱えていて――。

 前世の記憶がある転生者に、タイムトラベラー。この展開に筆者は単純にわくわくし、「ジャンルを超えた最強タッグが生まれてしまった」と興奮したものだが、しかし実際に読み進めてみると、この作品そんなに単純なものではなかった。

過去生の記憶が残る転生者、常盤

 前世は短命で、この歳になるほど長く生きたことがないという常盤。筆者も今年で36歳、常盤と同じ歳だが、自分自身のことで言えば、「長く生きた」という感覚はまるでなく、同年代の友人たちも「気づけばこの年になっていた」という感覚の人が多い。過去生の記憶を背負いながら転生を繰り返してきた、常磐の「人生」や「時間」に対する感覚は、常人とは違う。もっといえば、過去生の記憶は重荷になっているようだ。

 前世の記憶が現世で蘇るのは、前世で命を落とした年齢になった時だという。「神様は自分になんの恨みがあってこんな魂にしたのかまったくわからないけれど きっとこれは何かの罰なのだろうーー」という常盤の言葉が胸に迫る。過去生を思い出すということは、思い残しや死の苦しみを繰り返し体験することであり、それは耐え難い苦痛のようだ。不遇だった前世の知識や経験を活かし、大成功を収める――という「転生者」とはまったく違っている。

 過去生の記憶に縛られるのが嫌で、振り回されたくない。自分の人生だと歩み始めた、今世の常盤。そこにさらなる不幸が重なり、「――もういいかな」と打ちのめされていた。それが2か月後、先ほどの同居人への告白につながったのだった。

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