藤子不二雄(A)が描いた、魅力的な悪人たちと“弱者の視点” 漫画史に刻まれた功績を振り返る

 2022年4月7日、『怪物くん』や『忍者ハットリくん』などのヒット作で知られる漫画家の藤子不二雄(A)の訃報が流れた。88歳だった。

 藤子不二雄(A)は、1934年、富山県氷見市に生まれた。本名、安孫子素雄。いわずと知れた、“ふたりでひとりの漫画家”――「藤子不二雄」のひとりである。もうひとりはもちろん藤子・F・不二雄こと藤本弘(1996年逝去)だが、その藤本が書いたなんとも味わい深い文章が残されているので、まずはそれを紹介したい。

 藤子不二雄は二人いるのです。一人は安孫子といいます。僕は藤本です。僕は寡黙です。安孫子は、おしゃべりというと言葉が悪いけれど、サービス精神に富んだ社交的性格です。よくしたものです。

 〈中略〉

 藤子不二雄を、二人の人間の組みあわせから成り立つ有機体と考えれば、安孫子素雄は、藤子の目であり、耳であり、特に口なのです。

(藤子不二雄(A)/藤子・F・不二雄『二人で少年漫画ばかり描いてきた』日本図書センターより)

 実際、1987年のコンビ解消後も、藤本(以下、「藤子F」)はひたすら漫画の執筆に専念していたような印象が強いが、安孫子(以下、「藤子(A)」もしくは「(A)」)のほうは、創作のかたわら、映画(『少年時代』)をプロデュースしたり、テレビ番組(「ギミア・ぶれいく」など)に出演したりと、持ち前の社交性と多才ぶりをそれまで以上に発揮していた。

 代表作は、冒頭で挙げた2作のほか、『まんが道』、『プロゴルファー猿』、『魔太郎がくる!!』、『笑ゥせぇるすまん』など。絵的な特徴は、太めの主線(おもせん)と、白と黒のコントラストが強めな(というよりも「黒」が印象的な)画面構成であり、内容的には、人間の暗部を描いたブラック・ユーモアや怪奇色の強い作品を得意とした。また、『狂人軍』や「毛のはえた楽器」といった、いまでは“封印”されている“問題作”も少なくない(封印されていない作品にも、過激なものが多い)。

少年のもとに現れるトリックスターたち

 ちなみに、これは藤子Fについてもいえることなのだが、藤子(A)が何よりも巧かったのは、「日常」に「異物」――より具体的にいえば、「トリックスター」を放り込む物語作りだった。

 ある日、“普通”の生活を送っていた平凡な少年のもとに、突然“異形”の存在が転がり込んできて、“物語”が動き出す(異形の存在とは、(A)でいえば、怪物くんやハットリくん、Fでいえば、ドラえもんやコロ助など。また、合作時代の作品では、オバケのQ太郎もそうだ)。

 そして、そんな非日常の象徴でもあるトリックスターたちが去っていくとき、“少年時代”は終わるのである(機会があれば、藤子Fの「劇画・オバQ」も読まれたい)。

 いずれにせよ、「(異人)居候モノ」ともいうべきこの種の人気(?)ジャンルを、日本のコミックシーンで発展させたのは、「藤子不二雄」のふたりだったといっても過言ではあるまい。

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