映画版が公開中 現代の怪談『女子高生に殺されたい』は鬼才・古屋兎丸の集大成だ

※本稿では、「オートアサシノフィリア」、すなわち、自分が殺されることに性的興奮を覚えるキャラクターについて考察しています。その種の内容を不快に思われる方は、ご注意ください。(筆者)

 『女子高生に殺されたい』という、なんとも刺激的なタイトルの漫画をご存じだろうか。作者は古屋兎丸。同作は、2015年から2016年まで「ゴーゴーバンチ」(新潮社)にて連載されたサイコホラーであり、現在、田中圭主演、城定秀夫監督による実写映画版が上映中だ。また、全2巻だった旧版のコミックスを1冊にまとめた「新装版」も、先ごろ発売されたばかりである。

自分が殺されることに性的興奮を覚える性的嗜好

 『女子高生に殺されたい』の主人公の名は、東山春人。34歳の彼はいま、都内の高校で歴史と公民を教えている。生徒たちからの評判もまずまずのようだが、そんな春人にはある恐ろしい“夢”があった。それはもちろん、タイトルでも明かされているように――“女子高生に殺されること”。

※以下、ネタバレ注意。

 むろん、彼にはそれが「まともじゃない」感覚だということは充分わかっていた。春人はもともと、高2の始めごろから、「可愛い女の子」を見ると「変な感情」(=「自分を殺してほしいという願望」)に襲われるようになったようだが、大学生になり、その「ターゲット」はより狭められていった。つまり、彼が自分を殺してほしいと願う存在は、「可愛い女の子」という漠然としたものから、「女子高生」――それも、「美しい女子高生」に限定されていったのである。

 また、高校時代に本で「オートアサシノフィリア」という、「自分が殺されることに性的興奮を覚える性的嗜好」の存在を知った春人は、大学では心理学を専攻していた。そして、のちに臨床心理士となるため、病院の精神科病棟で実地研修を受けていた際、ある人物(核心的なネタバレになるため、それが何者かは伏せる)との衝撃的な出会いを果たすのだった。

 いずれにせよ、それ以降、自らの欲望を抑え切れなくなった春人は、突然、進路を変更して前述のように高校教師となる。そしていま、“運命の少女”ともいうべき佐々木真帆という美しい女子高生が、彼の心を狂わせているのだった……。

「女子高生」が象徴するものとは?

 本作では、この東山春人と佐々木真帆の他、小杉あおい(真帆の親友)、川原雪生(真帆に想いを寄せている男子高校生)、深川五月(臨床心理士・春人の大学時代の恋人)というキャラクターたちが物語を動かしていくのだが、いずれも、多かれ少なかれ心に“闇”を抱えているということにまずは注目されたい(一見、好男子に思える雪生でさえ、真帆への過剰な想いとそれに伴う行動は、見ようによってはやや“引く”ものがあるし、本作のいわば“探偵役”である臨床心理士の五月も、春人と別れて以来、ずっと「心に大きな穴」が開いたままだ)。

 そういう意味では、この物語は、誰もがどこか心に病んだ部分を持って生きている現代社会の縮図であるといえなくもないが、だとしたら、本作のキーワードである「女子高生」とは、いったい何を象徴しているのだろうか。

 それはたぶん、「少女」と「怪物」の両義性だ。「天使」と「悪魔」といいかえてもいいが、それゆえに、春人に選ばれた「女子高生」は、美しさ(創造)と恐ろしさ(破壊)を兼ね備えた神々しい存在となり、彼を“殺す”という形で、究極の“愛”を与えてくれるというわけだ。

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