『SLAM DUNK』武里高校は翌年以降にチャンス到来? インターハイ県予選を面白くした陰の立役者

 魅力的な登場人物に、魅力的な高校がいくつも登場するバスケットボール漫画の金字塔『SLAM DUNK』(スラムダンク)。そのなかで、インターハイ神奈川県予選の決勝リーグに残ったものの、陵南高校相手に64対117、湘北高校相手に81対120、海南大附属高校相手に51対98と、いずれも大差で負けている武里高校は目立たない、あるいは“かませ犬”と評価しても差し支えない存在だ。

 しかし、この武里高校のおかげで、『スラムダンク』という物語は見どころがグッと増えた。本稿では、同校が物語上果たした重要な役割について考察したい。

熱き陵南戦への布石

 4校によるリーグ戦に進出した湘北高校。そこで公式戦初の敗北を経験し、成長を遂げ、全国への切符を勝ち取るという劇的なストーリーを描くためには、武里高校に盛大に負けてもらう必要があった。そのことで、3チームで2つしかない全国大会の切符を争う構図になり、“負けたら終わり”の最終戦となる陵南戦が極めて熱く、感動的なものになったと言えるだろう。

 そして、武里戦が2戦目だったことは湘北に大きな追い風になった。前半10分ほどで海南大戦で負傷したキャプテンの赤木をベンチに下げ、翌日の陵南戦に向けて体力を温存させることができたのも大きかったが、一番はシュートの猛特訓をした桜木の成長を隠し通せたことだろう。それが、後に陵南・田岡監督が湘北の不安要素と決めつけ、自ら逆に敗因になったと認めた「素人・桜木」の読み違いにつながり、湘北の勝利に説得力をもたらしている。

 もし桜木が寝坊せずに武里戦でシュートを何本か決めていれば、田岡も考えを改めていただろう。試合順や桜木の寝坊など、湘北が勝ち抜くには「運」が必要であり、それが効果的に描かれたのが、他ならぬ武里戦だったと言える。

現実的な戦略を遂行しようとした武里

 次に武里高校に寄り添った考察をしたい。武里の監督は湘北戦前に「海南はおそらく3戦全勝でトップをとる」と予想。「1勝2敗で3チームが並び得失点差で2位を勝ち取る」というプランを選手に伝えていた。すでに陵南に負けており、残りは湘北と海南大を残すだけの武里にとって、ある意味、最も現実的な方針と言える。

 海南大相手に善戦した湘北に大差をつける、というのは無茶な提案にも見え、実際、桜木がおらず、赤木も早々にベンチに下がった湘北相手に惨敗したが、早々に「海南大戦は捨てる」という前提に立った監督の視点にはリアリティがあった。

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