原作ファンが見たアニメ映画『フルーツバスケット―prelude-』 完結から16年、描かれた透と夾の新たな姿

 少女マンガ好きなら、『フルバ』の名前を一度は聞いたことがあるだろう。高屋奈月の『フルーツバスケット』は『花とゆめ』(白泉社)において、1998年から2006年まで連載した大人気少女漫画であり、全世界コミックス累計発行部数3000万部を突破。2001年と2019年~2021年に2回のアニメーション化、2009年、2022年に舞台化している。

 ラブコメディと見せかけて、シリアスな草摩家のお家騒動に巻き込まれていく、主人公・本田透。そしてそんな透をはじめとするキャラクターたちが成長を遂げていくのも見どころの一つだ。

 現在(22年3月)公開されているアニメ映画『フルーツバスケット―prelude-』は『フルバ』本編に収録されている、主人公・本田透の敬愛する、透の母・本田今日子と父親の勝也の物語だ。今回は主人公・本田透と母の今日子の関係性を読み解きながら、もうひとつあったかもしれない『フルバ』について考察していきたいと思う。

 今日子と勝也の過去編では、今日子がグレて家族の元にも帰らない、「悪いヤツら」とつるんでいることが描写されている。そんな今日子の前に勝也が教育実習生として現れる。ふたりはささやかな高校合格という目標を目指し、週末に会うようになる。しかし「悪いヤツら」から抜けるために、大怪我を負ってしまう。家からも勘当を言い渡された今日子に、勝也はプロポーズをする。そしてふたりは結婚をし、透ができ、透が幼いころ、勝也は……。

 以上が「フルーツバスケット ―prelude-」のあらすじだ。

 本田透にとって、母・今日子は模範であり、憧れだ。母の今日子のようにありたいという気持ちから、母を敬愛している。しかし父の勝也については、透はなかなか言及しない。

 この非対称はどうしてだろうか、と本編を読み進めていくと、コミック19巻にこんな透の独白がある。

お父さんを
…悪者のように思っていました……
ちゃんと確かに憶えているのに
それなのに
お母さんを連れていてしまうんじゃないかって
思って
私のところにいてほしくて
つなぎとめたくて
自分が安心したくて
その為だったどんな事もする
私は
簡単に…
お父さんを悪者扱いする私は
…………自分の為なら
どんな約束も手放そうとする私は
…………最悪です

 このように透は、自分から母を「引き離そうとした父」という像を作りあげていた。そしてその父親像が間違っていることも透は気づいていた。

 最終的に結ばれることになる草摩夾に上記の独白をすることによって、透は夾によって罪を許される。

 しかし問題は父を悪役として捉えることだけではない。

 問題は透が母を敬愛しているゆえに、死んだ母に逆らえないことだ。透は母のことを理想化しすぎて、一回も今日子に反抗をしたことがない。

 しかしコミックス21巻で、透は夾に向かって言う。

お母さんが そんなこと
“許さない”とか
言うなんて
信じられません
 でも もし もしも
本当に そう 言ったのだとしたら
私は お母さんに 反抗せざるをえません…!!

 ここで草摩家の呪いについて、思い出してほしい。神が13種の動物と交わした契約――絆や呪いとも呼べるもの――が、支配している。透と透の母・今日子にも絆はあったが、草摩夾への想いが勝ったのか、透と母の絆が変化した瞬間が上の透の発言だ。

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