『イタズラなKiss』多田かおるが少女漫画界に与えた影響 30年経った今でも愛される理由とは?

『イタKiss』多田かおるが与えた影響

 故・多田かおるの代表作『イタズラなKiss』。日本だけでなくアジアでも幅広い人気を誇るこの作品は、1996年のドラマ化を皮切りに、2005年に台湾で、13年と16年に日台でそれぞれリメイクされ、その後も実写映画3部作が公開されるなど、今もなお読者に愛され続けている。その人気の秘訣に迫る。

同居ものブームの火付け役

 『イタズラなKiss』は、1990年の連載開始から今年でちょうど30周年に当たる。ヒロインの相原琴子が、ひょんな事から片思いのお相手・入江直樹の家に居候するという、いわゆる「同居もの」ブームの先駆けとなった作品だ。

 あだち充作品を筆頭に80年代から使い古された設定であったが、男女を同居させるべくヒロインの自宅を倒壊させるノリの良さは、明るい作風が持ち味の作者ならではであった。

 多田が当てた金脈は、92年『ママレード・ボーイ』、96年『花ざかりの君たちへ』、98年『フルーツバスケット』と次々と掘り進められ、その後も『ホタルノヒカリ』『逃げるは恥だが役に立つ』など、ヒットの定番ネタとなっていく。

 『イタKiss』の面白さは何と言っても、ドジで一途な琴子と、完璧男子の入江くんの掛け合いにある。IQ180でスポーツ万能、他人の失敗の分までカバーしてしまう入江くんが、失敗ばかり仕出かす琴子にひっかき回される様子は、恋愛要素を抜きにしても面白い。

 その上で、冷徹な入江くんに琴子がやり込められる逆のパターンも備えており、相互にマウントポジションを奪い合いながら少しずつ心の距離を縮めていく、2人のキャラの引き出し方が絶妙だ。

 こうした掛け合いも『恋はつづくよどこまでも』等の、後年の作品に引き継がれている。現在では「壁ドン」として知られる描写も第3巻で確認できるなど、まさにラブコメの王道だと言えよう。

とびっきりのHAPPYをありがとう

 2008年に製作されたアニメ版には、スタッフからこのようなメッセージが添えられていた。

「多田かおる先生、とびっきりのHAPPYをありがとう」

 『イタKiss』では、琴子と入江くんの間に割って入った恋のライバルも数多く存在する。池沢金之介、松本裕子・綾子姉妹、中川武人、大泉沙穂子、鴨狩啓太、入江理加の7人である。

 しかしそのいずれも、琴子と入江くんの結びつきの強さを感じ取るや否や、それ以上踏み込む事なく身を引いている。この作品には全23巻を通じて、2人の間を引き裂こうとするような、人間関係を本気で害する描写が存在しないのだ。

 特に琴子は、持ち前の不器用さが職場となった外科病棟でも発揮され、どでかい失敗を何度もやらかしている。学生の頃は困った時の入江くん頼みだったが、看護学部に入り直し、一から勉強して看護師になった琴子は、いつしか入江くんにフォローされる事なく、独力で失敗を挽回するようになっていた。

 琴子のキャラを立てつつも、長期連載の強みを生かし長年積み重ねてきた大人へと成長する描写が、人間関係がリセットされた環境で琴子を救っている。ネガティブな表現を徹底して避け、ポジティブな表現を9年間も継続し、その読後感は「HAPPY」の一言に尽きる。

 「共感の時代」と呼ばれる今だからこそ読者に受け入れられ、リメイクされる要因となっているのだろう。

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