ピュア、ホラー、ディストピア……2月発売BLコミックレビュー 『僕らのミクロな終末』『愛日と花嫁』など個性豊かな5作品
『愛日と花嫁』(渚アユム/一迅社)
男女性は異なるα、β、Ωという第2性が存在する世界観を描く、オメガバース作品。フェロモンで本能的に惹かれ合うαとΩの運命的出会いと男性でも妊娠可能という設定が、BLの創作の幅をさらに広げてきた。しかし本能的に惹かれ合うという設定があまりにも強く、恋や愛の芽生えがぼやけてしまうこともある。『愛日と花嫁』はその芽生えの瞬間に、しっかりとした説得力が感じられるオメガバース作品だ。
物語は、いつでも笑顔なお人好しのルカが突然Ωとなり、村のためというもっともそうな理由で神の生贄にならざるをえなくなったところから動き出す。ルカは想像とはかけ離れた神・クロの優しさに触れて、実は胸に抱えていた自身の痛みと向き合うこととなる。そしてその痛みを神であるクロも持っていると気づき、自分も手を差し伸べたいと願うようになる。この惹かれ合うに足る感情の動きが、一冊という限られた枠の中で丁寧に描かれていた。
また同作はオメガバースに加え、神と人という設定が組み込まれている。さらにはΩ性の出現にまつわる設定も含まれていた。これだけの設定を盛り込みながらも、きちんとそれぞれの設定を相互に結びつけ活用しているところに、驚きを隠せない。
『僕らのミクロな終末( 上・下)』(丸木戸マキ/祥伝社)
巨大隕石の落下によって地球が滅びるまであと10日というディストピアを舞台に、貧乏くじばかりの人生を送ってきた真澄と、彼をそんな道へと導いた元凶である律との最悪の再会愛を描いたのが『僕らのミクロな終末』だ。
同作の登場キャラクターたちは、全生物に平等に訪れる終わりの日へ向かって行動している。終わりが確定している以上、ハッピーエンドも期待できない。にもかかわらず本作は、不思議と希望にあふれている。それはきっと、生きているのに死んでいるみたいな感覚を心のどこかに抱いていたふたりが、終わりに向かうなかで互いが背負ったものを少しずつ取り外しあいながら、ありのままの自分を解き放っていくからだろう。
誰にも平等に訪れる人生終了までの、濃密な10日間。ロードムービーを見ているかのような充足感が味わえる一作だ。
ストーリーの重厚感、色気ともに大満足なラインナップ
ページをめくる手が止まらない、一冊の完成度が非常に高い、そんな作品にあふれた2月のラインナップだった。また甘くとろけるシーンも、BLファンの皆さんにきっと満足していただける作品ばかりだと思っている。新たな作品の開拓にお役に立てると嬉しい限りだ。