ゴルゴ松本×宮口幸治が語り合う、少年院の子どもたちに必要なこと 「笑いには免疫力をあげるような効果がある」

ゴルゴ松本×宮口幸治、少年院対談

 「命」などの漢字ギャグで知られるお笑いコンビ・TIMのゴルゴ松本氏。実は2011年からの10年間、全国各地の少年院の子どもたちに向けて、ボランティア講演を続けてきた。漢字や歴史に関する知識を織り交ぜた人生論を「お笑い」とともに届けている。

 新刊『「命」の相談室 僕が10年間少年院に通って考えたこと』(中公新書ラクレ)では、そうした10年の実践を通して考えてきた思いを綴っている。全身全霊で少年たちに向き合うゴルゴ氏の熱い言葉は、生きづらさを抱える多くの人の心に響くはずだ。

 今回、ゴルゴ氏と『ケーキを切れない非行少年たち』シリーズ(新潮新書)の著作がある宮口幸治氏の対談が実現した。宮口氏は児童精神科医として、精神科病院や医療少年院に勤務し、2016年より立命館大学産業社会学部教授を務めている。

 シリーズ累計120万部を超える大ベストセラー『ケーキを切れない非行少年たち』では、少年院には簡単な計算問題も解けない知的障害・境界知能の子どもたちも多いことを指摘しつつ、本当に有効な支援とは何かを示した。少年犯罪へのイメージを変えるその内容は、世の中で大きな反響を呼んだ。

 少年院で少年たちと向き合った経験のあるお二人は何を感じているのか。お互いの著作の感想や、実際の少年たちを前にして感じたことについて、ディスカッションをしてもらった。(篠原諄也)

「笑い」で少年たちを動かす

ゴルゴ松本『「命」の相談室 僕が10年間少年院に通って考えたこと』(中公新書ラクレ)

――はじめにお二人の著作の感想を語り合っていただければと思います。

ゴルゴ:先生の「ケーキの切れない非行少年たち」シリーズで、少年院について書かれた箇所は、一般の社会にも非常に当てはまるなと思いました。人間というものは、こうやって非常にわかりやすく分析してもらえると、しっかりと物事を理解をすることができて、無駄なイライラがなくなるのかなと感じます。

 つい昨日、近所で40代くらいの女性が犬の散歩をしていたんです。すると犬にうんちをさせたまま、置いていったんですね。それにすごく驚いてしまいました。私も犬を飼っていますが、犬の散歩中はうんちを取って帰るのが常識です。

 とっさに注意しようと思ったのですが、先生の本に世間的な常識がなかなか伝わらない人もいるということが書かれていたので、「もしかしたらこの人には言ってもわからないかもしれない」と想像したんです。

 感情的に何かを言うことでもしかしたら余計に事態をこじらせてしまうかもしれないし、このとき、僕はあえて文句を言ったりはしませんでした。

 先生の本に書かれているのは、世の中には自分の尺度では測れないような人もいるということですよね。本で興味深く読んだ内容が、私生活にも出てきたと思いました。身近なところにも、そういう例があるということでしょうか?

宮口:境界知能に関係なく、世の中には色んな方々がいて、その中には、少年院の非行少年のような子たちだけではなくて、生き難さに気づかれていない大勢の人たち、一般的なことを理解するのが難しい人たちもいる。そういう視点は皆さんに持っていただきたいと思っています。

ゴルゴ:実際に少年院に勤められている先生の論考は非常に参考になりました。僕が講演に行く時は、必ず質問から入るんですよ。そこで挙手して発言してくれる子たちは、決まっているんですね。手を一切あげない子には、後から指名するようにしています。

 「親戚のおじさんの話だと思って聞いてほしい」と言うんです。そういう雰囲気で進めるので、徐々にみんな発言してくれる。だから僕の講演では、最初から斜に構えて横柄な態度をとる子はいないんですよね。少し時間が経つと、飽きてきちゃう子もいるんですが、そこは僕も芸人なので、空気の流れを変えたり工夫をする。とはいえ、今後はもはや授業っぽくないことも取り入れていこうかなと。いろいろなアイデアを思いつきました。

宮口:少年たちに体を使って何かをしてもらってもいいかもしれませんね。

ゴルゴ:一応、ギャグをやってもらったこともあったんです。将来の夢を聞くと「歌手になりたい」という子もいます。「じゃ、ここに出てきて歌ってくれよ」なんて言って。

 あと僕はもともと俳優をやっていたので、演技の授業をやったこともありました。僕が生徒役になって、少年が先生役になったりして。そんな即興コントのような演劇を、今後続けていくのもいいかもしれません。

宮口:ハードルが高い少年もいるかもしれないですね(笑)。

ゴルゴ:もちろん、臨機応変に変えていきますが(笑)。誰かがみんなの前で何かをやると、必ず笑いが起きるんです。この笑いが非常に良いのかなと思っています。まるで病気の免疫力をあげるような効果がある。

 僕ら芸人はずっと仕事で笑える雰囲気作りを意識してきました。やっぱりどんな子も、笑いは嫌いじゃないんですよね。なかには「そんなことで笑わない」という頑固な子もいるんですけど、そんな時に笑わせたくなるのが芸人魂なんです。

宮口:ゴルゴさんの本の「まえがき」で、少年院に入っている子どもたちは必ずしも心根の悪い不良少年たちばかりじゃないと書いていました。これはとても重要な指摘で、書いてくださって嬉しかったです。世間の誤解で「少年院にいるのは悪い子ばかり」だと思われている。でも私も、少年院に勤務して、根から悪い子だと感じたことはほとんどないですね。

ゴルゴ:僕が初めて行った多摩少年院では、本当に普通の子どもたちだったので驚きました。

宮口:もちろん例外はありますが、みんなが悪意のある不良少年という感じではないんです。知的障害や境界知能の少年も多く、理解力がすごく弱い。これまで気づかれてこずに虐げられてきた弱者なんですよね。社会的な弱者が非行に走る。守らなければいけない障害者が、犯罪者になってしまっている。社会の歪みを強く感じます。これはとんでもないことだと思うのです。

ゴルゴ:そうした子どもたちは先天的なものなのでしょうか? 生まれ育った環境の要因も大きいのでしょうか? 周りの大人から虐待を受けてしまっていると、考え方が成長せずに未発達ということもあると思うんです。

宮口:虐待を受けている子は、体が小さかったり、考え方が幼かったりします。感情コントロールができないなど、幼い倫理観のままだったりする。

 ただ通常の知的障害の子は生まれつきが多いですね。軽度の知的障害の場合でも、大体健常者の7割位の能力しかないのです。成人になっても、小学校6年生位の知能で精一杯。そういう子たちが、社会に出て挫折をしてしまう。そこで利用されて犯罪に手を染めてしまうことは、本当にかわいそうだし、支援をしないといけないと思います。

ゴルゴ:一番悲しいのはそこですよね。本人にそのつもりがなくても、悪いことに巻き込まれちゃうということもある。

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