テリーマン、雷電、アントニオ猪木……漫画における「名解説者」の条件とは?

格闘漫画における「名解説者」の条件

 スポーツ中継において、実況と共に欠かせないのが解説者の存在である。主に目の前で起こっている事象や技術、選手の心理などについて競技経験者からの視点で、視聴者にわかりやすく説明してくれるポジションだ。スポーツ漫画においても、試合を描く際にこの実況・解説スタイルをとることは多く、絵だけでは伝わりにくい状況を読者にわかりやすく伝えることに一役買っている。今回は主に格闘漫画に絞って、有名な解説役を紹介、および比較・検証していこうと思う。

 まず格闘系漫画の解説者としてまっさきに思い浮かぶのが、ジャイアント馬場とアントニオ猪木だろう。前者は『タイガーマスク』で実際のプロレス中継同様に放送席に陣取り、情報を提供していた。実在する人物が漫画に登場することで、リアリティと説得力をもたせることに成功した例である。

 問題はもう一方、『プロレススーパースター列伝』に登場したアントニオ猪木だ。実在のプロレスラーの成り立ちを紹介していくこの漫画において、所々で個々のエピソードに対してコメントを挟んでくるのである。ご丁寧に「アントニオ猪木(談)」の一文と自身の似顔絵を添えて。当時のプロレスラーの真偽不明の仰天エピソードに太鼓判を押すようなこの猪木の解説は、やはり読者にとって絶大な説得力があり、みなそれらのエピソードを信じてしまったのだ。「アントニオ猪木(談)」ーーなんとも罪な一文である。

優秀な解説者の条件

 二人に共通するのはその道(プロレス)に精通し、カリスマとしてリスペクトを集める存在であるということである。誰よりもプロレスを知り尽くし、数多の戦いに身を投じた二人だからこそ、世界各国のありとあらゆるレスラーや格闘技の情報に詳しくても、何の疑問も感じることはなかった。ここに格闘漫画の解説者のスタイルが確立されたと言ってもいいだろう。その条件とは、

「選手もしくは元選手」であり、「自身も技に長け」、その「経験や探究心」から、「幅広い知識」を持ち、「その道に精通」していること。である。

 そして80年代の「週刊少年ジャンプ」にて、今も語り継がれる2大解説者が誕生することになるのだ。そう、『キン肉マン』のテリーマンと『魁!!男塾』の雷電である。

 「そういえば聞いたことがある」というキラーフレーズを武器に、新たに登場した超人が繰り出す技や技術、成り立ちなど、読者が知りたい情報を「いつ、どこで、誰から」聞いたことがあるのかを一切明かすことなく、さらっと説明してくれるそのスマートな解説スタイルは、おおよそファイトスタイルとは似つかない知的な何かを感じさせてくれる。

 そう、本来上記解説者の要件にある、技に長けているというファクターは、実はテリーマンにはまったく当てはまらない。しかも性格的に他の格闘技や武道を研究しているとも思えない……。もっと言えば、そんなに社交的な性格でもないであろうテリーマンに、いったい誰がいろんな知識を吹き込んでいるのだろう? 

 テリーマンが誰から聞いているのか、連載から40年以上経った今、『キン肉マン』でもっとも大きい謎のひとつかもしれない。ゆでたまご・嶋田先生のような、トンデモ起源説やゆで理論に精通した学者や有識者が身近にいるという説が有力だが、果たして……。

 そして、そのテリーマンと双璧をなす、ジャンプの名解説者、雷電。

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