空気を読まない主人公はなぜ人気? ハライチ岩井勇気原作『ムムリン』が面白い
空気の読めない奴、というのは現実でたいていやっかまれるものなのに、フィクションにおいては重宝され、好意的に描かれていることも多い気がする。
たとえば今季(2022年1月期)のドラマでは、田村由美のマンガが原作のドラマ『ミステリと言う勿れ』の主人公・久能整。「僕は常々考えているんですが……」とたびたび話の腰をおり、周囲から「めんどくさい」と言われてしまう大学生なのだけど、どんな事象も「なんとなく」で済まさない彼の視点はさまざまな事件を解決に導いていく。『ドクターホワイト』では、浜辺美波演じる白夜が、医療知識以外のすべてを忘れているため(こたつやクレープが何かもわからない)、周囲の思い込みや同調圧力に屈することなく、誰より正確に誤診を指摘していく。『ゴシップ #彼女が知りたい本当の○○』で黒木華が演じる瀬古もまた、常に辞書を片手に持ち歩き、言葉の一つひとつを正確に定義する律義さで、誰もが騙されかけていたゴシップの真相を明らかにしていく物語だ。
思ったことをそのまま口にする主人公
場の空気を読めない、というよりは積極的に読まずに「なんで?」「おかしくない?」と疑問を口にする彼らが身近にいたら、たぶん相当うっとうしいし、いちいちうるさいな!と噛みついてしまうだろうけれど、物語の主人公としてなら「よくぞ言ってくれた」と素直に受け止めることができるし、先入観や常識にとらわれず物事の本質を見ようとする彼らの姿勢に「自分もそうありたい」と憧れもする。
彼らのような人々を主人公に据えたドラマがこれほどつくられるということは、なんとなく多勢に流れ、考えることを放棄してしまうことに対する危機感を、多くの人が抱いているからではないだろうか。
芸人・ハライチの岩井勇気が原作をつとめるマンガ『ムムリン』(漫画:佐々木順一郎)の主人公もまた、まるで空気を読まず、思ったことをそのまま口にする。物語は、宇宙旅行中のポコムー星人ムムリンが、宇宙船の故障によって小学生コウタの部屋に緊急避難するところから始まるのだけれど、持ち前の愛嬌を駆使して助けてもらおうとするムムリンに「えっ? まさか宇宙人ってだけで珍しがられて優しくしてもらえると思ってない?」とのっけから辛辣に対応する。「かわいそうだから泊めてあげたら?」という同級生にも「そう思うならナナちゃんの家に泊めたら?」「自分は何もしないならかわいそうなんていう資格ないよ」ととりつくしまもない。
そもそも、この手の物語では、友達をつくるのがあまり上手ではない主人公が、未知との遭遇によって広い世界へ飛び出していき、友情を育みながら成長していくというのが定型だが、本作では、助けを求めているムムリンをしかたなく保護しているという形で二人の関係は描かれる。絵柄や設定は『ドラえもん』や『21エモン』を髣髴とさせるだけに、感情論に決して惑わされず、唯我独尊の態度をつらぬくコウタのキャラクターは新鮮に映る。ともすればただの嫌な奴にもなりかねないが、妙に愛着がわいてしまうのは、彼が誰を相手にしても常に態度を変えないからだ。