【漫画】電柱の上に見える人の正体は? 短編漫画『電柱の人が見える僕の話』が深い
ーー登場する人物がみな魅力的な作品だと感じました。創作のきっかけを教えてください。
小田桐圭介(以下、小田桐):本作は十数年前に描いた作品です。もともと私は子どものころから自然と物語の欠片やイメージが頭に湧いてきて、それらをあらすじや落書きなどにして、ノートに書いておくという習慣がありました。中学校と高校を経て、大学に入学してから、その頭のなかに湧いたものの表現手段として漫画を選び、本格的に描き始めました。
しかし大学を卒業したあと、私は環境の変化だったり時間的制約だったりと様々な要因で漫画を描けなくなってしまった時期があったんです。頭に物語は湧くのに、漫画を通じたアウトプットができない状態でした。その状況に追い詰められ、自分はこれからどうなってしまうのかと考えたりなどして、精神的にとても不安定になっていました。
このままだと本当にダメになる、もう1度ちゃんとした漫画を描かなければいけない。そう思い、なんとか環境を整えて無我夢中で描き上げたのが本作です。
ーー本作を描くうえで意識した点や作品のテーマを教えてください。
小田桐:追い詰められた状態だったので、思いついたものをとにかく衝動的に描きました。そのため当時の自分の置かれた状況や環境、心情がそのまま色濃く反映された内容になっています。主人公である海原もほとんど当時の私自身ですし、友人である板橋くんのモデルも存在します。無我夢中に描いた作品で、当時は「とにかくアウトプットを」と憑かれたように制作したので特に意識したことやテーマなどは全く考えていませんでした。しかし今ゆっくり思い返すとこの作品の根底には“自分を取り戻す”というテーマが存在していたように思えます。
ーー海原くんが自分を取り戻したのは電柱の人が見えるようになった瞬間であったと解釈しています。
小田桐:そうですね。海原は大切なものを失ったことと同時に電柱の人が見えるようになりました。そしてその電柱の人は海原自身でした。今振り返って考えると、当時の私は勇気を出して失うものがあっても自分を取り戻すという救いのある話を描きたかったのかなと思います。
ーー海原くんと野崎さんが話すシーンでは、野崎さんが海原くんと連絡先を交換しようとする様子も見られました。
小田桐:たぶん海原が器用な人間だったら野崎さんとうまく付き合っていたと思うんです。それで海原自身は幸せになっていたと思います。しかし電柱の人は見えないままだったはずです。それはそれで大人になる一つの成長という意味で正しい選択だと思いますが、海原はああいった行動に出てしまい、結果的にそれを選びませんでした。けれど、無我夢中で行動したことで吹っ切れることができたんですよね。
つまり好きな人と付き合うことができることで社会性が身についていくという選択ではなく、子どものころから見えていた電柱の人が再び見えるようになるという選択。海原は無意識のうちにそんな選択をしたのだと思います。それが本当に正しい選択だったのかは分かりませんけれど。
ーー小田桐さんが漫画を描き続ける理由を教えてください。
小田桐:物心ついたときから頭のなかで思いついたお話をアウトプットするのが当たり前で、漫画を描く理由を深く考えたことは無いので即答は難しいですが……。今、改めて自分の着想の源を見つめて考えてみますと、もしかしたら私は救いが欲しいのかもしれません。
描くことによって自分が癒されたいという意味ではなく、とにかくなにか救いが欲しいのだと思います。おそらく漫画を描くことによって自分自身にも、読んでくださった人にも何かしら大きな意味での救いがあって欲しいのだと思います。今でも自分の着想の、源の泉の正体は完全に言語化できていないので、あくまでも現時点での答えになってしまいますが。
ーー今後の活動について教えてください。
小田桐:いつもはまず、同人誌の即売会が作品の発表の場の第一選択肢なのですが、現在はコロナ禍の影響から即売会は不定期での開催となっています。そのため今はSNSで『香夜たちの話』という高校生たちの恋愛を描いた青春群像劇の作品の連載をしています。完結するまでは他の作品に手は出さないで、この作品を最後まで描き続けるつもりです。
これからも子どものころから湧いてくる着想の泉が枯れないうちは、自分の描きたい救いの正体をずっと考えながら漫画を描き続けると思います。その発表の場は今のように、同人誌の即売会なのか、SNSなのか、また今後、技術の発展や環境の変化で新しく出てくる別の媒体なのかはわかりませんが、とにかく描き続けると思います。
■個性豊かな高校生の恋愛模様を描いた青春群像劇『香夜たちの話』はこちら!
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