『アイの歌声を聴かせて』シオンは本当に“ポンコツAI”なのか?

『アイの歌声』シオンはポンコツAIなのか?

 ポンコツに見えて実は優秀かもしれないシオンに対して、『ユア・フォルマ 電索官エチカと機械仕掛けの相棒』から始まる《ユア・フォルマ》シリーズに登場するAIは、初っ端からとてつもない優秀さをカマしてくる。

 脳に電子の糸を張り巡らせることで、人類は身心を管理できるようになり、外部ネットワークとの接続も可能になった未来が舞台。脳の糸に潜って犯罪の記憶を探るインターポール所属の電索官・エチカに新しくあてがわれたハロルドという名の相棒は、エチカと会うなり、彼女が飛行機の機内で観てきた映画は何かを言い当てる。

 ハロルドはアミクスと呼ばれるAIで、以後もホームズばりの観察力とAIならではの記憶力で、エチカの捜査を助けて事件を解決へと導いていく。11月10日発売の最新刊『ユア・フォルマIII 電索官エチカと群衆の見た夢』でも、ハロルドの推理がインターポールの情報を漏洩し、襲撃させようと企んだ犯罪を暴く。SF仕立てのミステリとして楽しめるシリーズだ。

 超イケメンで超優秀なハロルドに惹かれたエチカとの、人種どころか存在を超えたラブストーリーにもキュンとさせられる。恋情を抜いても、ポンコツのシオンと比べたら相棒にハロルドを選びたくなるのが普通だが、そんな彼に怖さを感じてしまうところがあるから厄介だ。

 SF作家のアイザック・アシモフが提唱した「ロボット三原則」に倣うように、ハロルドたちアミクスには、人間を傷つけてはいけないという規律が搭載されている。ところがハロルドは、恩人だった刑事を殺害した犯人を見つけたいという目的のために、相棒のエチカを囮に使って危険にさらす。

 どうしてそんなことができるのか。優秀なAIには優秀さ故の落とし穴があるのか。エチカが知ってしまったその理由が、シオンには感じない怖さをハロルドに抱かせる。最後までハロルドは人間の良き隣人で有り続けるのか、それとも……。行方が気になるシリーズだ。

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