櫻井孝宏が語る、ラジオとエッセイの相互関係 「両方がうまく働いているのは大きい」

櫻井孝宏が語る、ラジオとエッセイの関係

 『鬼滅の刃』の冨岡義勇や『呪術廻戦』の夏油傑、『ジョジョの奇妙な冒険』の岸辺露伴(TVアニメ版)など、様々な話題作で人気キャラクターに声を当てる声優・櫻井孝宏。彼が、エッセイ集『47歳、まだまだボウヤ』(KADOKAWA)を発売した。

 本書は『ダ・ヴィンチ』の連載「ロール・プレイング眼鏡」をまとめたもの。SNSをやっておらず謎の多い櫻井が、生い立ちや私生活、現在の物事の捉え方などを自らの言葉でしたためている。口語体の柔らかい筆致が特徴的で、まるで櫻井本人が語りかけるような印象を受ける一冊だ。思わず、ハッと考えさせられる読者もきっと多いだろう。

 そこで、本人にインタビュー。制作段階の苦労はもちろん、読み手に気づきを与える、櫻井ならではの文章構成の秘密を探ってみた。(松本まゆげ)

【インタビューの最後にプレゼント企画あり】

過去のコラムも収録し“奥行きが出てしまった”

――連載「ロール・プレイング眼鏡」が、ついに1冊になりました。取材を受けている段階では制作途中だと思いますが、今のお気持ちはいかがですか?

櫻井:正直、ピンときていないんです。自分の書いた文字が1冊の本になるなんて……と。自分の人生において結構大きな出来事ではあるので一生懸命臨んだのですが、ちょっと照れがあります。それに、書かなくても良いことまで書いているので、恥ずかしいという思いもありますね。「本屋にはしばらく行けないな」とまではいかないですが(笑)、そんな気分になっています。売れるかどうかもわからないですし。

――楽しみにしていたファンも多いと思います。

櫻井:いやでも、わからないじゃないですか。そのへんは冷静ですね。買ってくれたり読んでくれたりするのはとてもありがたいですが、まだ気恥ずかしさのほうが勝っています。

――連載や書籍の新規収録部分にもご両親のお話がたびたび出ていましたが、お二人は何と言っていましたか?

櫻井:そもそも、連載が始まると知ったときにも結構驚いていたんですよ。しかも、校閲さんや編集さんがこんなにしっかり関わって、あんなに長い文章が載るとは思っていなかったらしく。最初に読んだときは衝撃だったらしいです。「ちゃんとしているじゃないか」って(笑)。

――ご両親もちゃんと読んでくれているんですね。

櫻井:テーマによってはわからない内容のものもあるでしょうけど、それでも一応読んでくれています。最初に名前を出したときは、母親から「許可を出していないぞ」と言われたんですけど(笑)。

――そんなことが(笑)。

櫻井:「そういうとこだぞ!」みたいなことも言われましたけど、それで許されたということは解禁かなと思い、思い出話などを書くとき頻繁に出しています。それは好ましく思ってくれているみたいですね。自分を語る上で、もちろん両親の存在は外せないので、書かせてもらえてよかったです。書籍化が決まったときにも喜んでくれました。そのときはやっぱり嬉しかったですね。

――ともあれ、書籍化にあたっては2日間ホテルに缶詰になったと聞きました。具体的にどんなことをしたのですか?

櫻井:書籍にする際、「変えたい部分もあるでしょうから」ということで、これまでの連載をいちからチェックしていました。事前に校閲さんにチェックしてもらっていて、それを見ながら変えたいところは修正していくといった作業なんですけど、校閲さんのチェックの量がすごすぎてびっくりしました。チェックを入れるにしても、何度も読んでいると思うんですよ。

――確かに。1度読んだだけでは校閲になりませんものね。

櫻井:その事実を考えたら……鳥肌が立ってしまったので、結果校閲さんの指示にほぼ全て従いました(笑)。自分一人では気づかない発見がたくさんあって、校閲さんのチェックを見るだけでもすごく楽しかったです。

――また、この本には過去に『hm3』などで連載していたコラム「櫻井孝宏のザクライ」も収録されているんですよね。こちらも読み返しましたか?

櫻井:しました! (渋い顔で)すっごいイヤでした……。「〜ザクライ」はエッセイというより、雑誌の1/4ページくらいのスペースに載っているコラムだったんです。私以外の声優さんもそれぞれに自由なことを書いていたので、当時の自分は随分無責任に書いていたんだなということがありありとわかるんですよ。

――今読み返すと。

櫻井:ええ。「この時代からこれについて書いているんだ。変わってないな」と思うものもあれば、全く覚えていないものもあってそれぞれ新鮮なんですけど、30分から1時間くらいでザザッと書いていたコラムなので、中には小学生の日記みたいな内容のものまであるんです。それも含めて自分だと思うので載せる意味はあると思うんですけど、載せることで奥行きが“出てしまったな”という気持ちです(笑)。川戸さん(現担当編集)はよく見つけてきてくれましたよ。

ラジオで培ったトーク力が文章構成に生きた

――「ロール・プレイング眼鏡」のほうを読み返してみて、満足度の高い記事はありますか?

櫻井:どうですかねえ……? はじめは正解も不正解もよくわからないので、自分が書きやすいテーマを選んで書いていたんです。第1回で取り上げた『ファイナルファンタジー』はまさにそうなんですけど、そこから「櫻井孝宏自身に沿ったものを書いてみては」と私にちなんだお題をもらうようになってから、徐々にわからなくなっていきました。

 今も指導を受けながら書いているんですけど、「大丈夫かな?」と思うものほど褒めてもらえて、「うまくいったかな」と思うものほどダメだったりします。この辺のピントは、まだ合っていないみたいですね。逆張りしているような状態なので、満足度の高い記事というと難しいです。「書き下ろしは死にそうになりながら書いたなあ……」とか、そういうことばかり覚えています。

――そんなに大変だったのですね。

櫻井:私は毎回、最初に結びを決めてそこに向かって書くというやり方をしているんです。なので、書く前にあらかた道筋を決めておくんですけど、大体違う出口に出てしまうんですよね。書き下ろしでは地元に帰ったときのことを書いているんですけど、思い出の土地なのでエモい感じになるだろうと思っていたらそうでもなく。「何を書こう!?」と頭を抱えてしまったんです。それでも最初はきれいにまとめようとしたんですけど、立ち行かなくなり今の形に。書き直したぶんだけ大変でした。

――いつもかなりの時間をかけて書いていそうですね。

櫻井:「ザクライ」ときは30分から1時間といいましたけど、今はどのくらいかかっているかわからないくらいの時間を費やしています。締め切りはあるのでその日を目指して書いているんですけど、なんとなく普段もずっとエッセイのことを考えているんですよ。で、携帯のメモに思いついたことを書き込んでおいて、それをもとに書こうとするんですけど、一気にガーッと書き上げることが出来ない質なので時間がかかるし。横書きだったものを(誌面に載るときと同じ)縦書きにするだけでも全然印象が変わるので、直したりして。

――やろうと思えばいくらでも出来てしまいますよね。推敲と修正は。

櫻井:もう、ずっとやってしまいますね。連載が進むにつれてああでもないこうでもないと考えながら書いているので、余計に時間がかかっています。「これがずっと続くのか……ちょっと嫌だな」とか思っちゃったくらいです(笑)。でも、それを突き抜けたときの面白さが見えることもあるんです。それがまた次のトライに繋がっていると思うので、積み重ねにはなっていると思います。ときには、3時間くらい経っても2行しか書けていないことがありますけどね。全然集中できなくて、YouTubeを観てしまったばかりに……。

――執筆業をしている人からはよく聞く言葉です(笑)。ちなみに、どんなYouTubeを観ているか聞いてもいいですか?

櫻井:主に都市伝説や怪談ですね。あとはゲーム実況もちょろっと観ることがあります。ゲーム実況は、実況向きのガッツリとしたゲームとかパーティーものよりは、『あつまれ どうぶつの森』みたいなゆるいものが好きですね。

――都市伝説や怪談というと?

櫻井:オカルトっぽいものというか、好奇心をくすぐられるものをよく観ます。特に、「ホントに?」と思うようなことを扱ってるYouTuberさんが好きですね。「この人はどこまで信じて話しているのかな」と思うんですけど、すごく客観的に話しているなら「きっと情報を丸呑みしているわけではないんだろうな」と、一定の距離を保っていることがわかる。そんなふうに、エンタメに振っている人もいれば、踏み外している人もいる界隈です。危うくて猥雑な感じがたまらないですね。

――なるほど。そんな誘惑もありつつ、書き上げた原稿は編集さんとの間で毎回3度くらいの修正作業をするそうですね。その際、どんな指摘がありますか? ダ・ヴィンチの公式YouTubeに毎月更新されている動画では「もう少し説明を加えてください」といった指摘があると言っていましたが。

櫻井:そう、一番はやっぱり端折るクセですね。これが大半だと思います。今「ザクライ」を読んでみてなるほどなと思いますよ。端折りまくっていて、何を書いているか全然わからない部分もあるので。今の連載が始まってからは、川戸さんに調教されて段々とわかるようになってきましたが、それでも指摘をもらうことがありますね。始めは「もう少し補足を入れましょうか」「クセが出ていますよ」という指摘だったんですけど、今では「クセ」しか書かれません(笑)。

――(笑)。そんなふうに手間をかけて書き上げていることもあり、毎回とても楽しませてもらっています。特に昔の知り合いに会った“かも”知れないし、違う人だったのかも知れないという喫茶店での一幕を描いた第12回「あなたの名前は」は、面白かったです。

櫻井:本当ですか。そういえば……さっき言っていた「満足度の高い記事」は、それかもしれないです。書きやすかったんですよね。

――構成も、過去と現在が交互に書かれていて凝っていました。お手本にしている文章があるのかなと思ったのですが、本はあまり読まれないのですよね。

櫻井:そうなんですよ。なので私の場合、「どう書こうかな」というより「どう喋ろうかな」と考えて文字にしている感じです。例えば、「このあいだ面白いことがあってさ」と話し出すと、面白さが目減りしません?

――ハードルが上がりますものね。

櫻井:はい。何の気なしに話しはじめたほうが、先入観なく面白いと受け取ってもらえると思うんです。そんな感じで、「こう伝えればいいかな」とトークから文字のフォーマットに落とし込んで構成を考えています。このやり方になったのは、ラジオがあるから(※櫻井は様々なラジオ番組でパーソナリティとしても活躍)。プロではないので、文字に対してあまり恐れがないのも大きいと思います。

 あとは、自分が「気持ちいい」と感じるリズムを感覚的に文字に落とし込んでいるのかもしれません。とはいえ気分でやってしまっているので、「こうだ!」という明確な決まりはないんですけどね。



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