『二月の勝者』が明らかにする中学受験家庭の様々な事情 生徒=金脈と発言する黒木の真意はどこにあるのか

『二月の勝者』生徒=金脈の真意は?

 『二月の勝者』というマンガがあるのだ、と人に話したら、苦笑しながら「いやなタイトルだね」と返されたことが記憶に残っている。このマンガのタイトルの「二月」は、2月1日から2月5日頃まで首都圏での中学受験が行われていることに由来する。つまり『二月の勝者』というのは、中学受験で合格を勝ち取った者という意味なのだ。

 2021年2月1日午前の受験者数の合計は4万人を超えており、首都圏の小学6年全体の14%ほどが中学受験を行っている。中学受験者数は2016年から伸び続けており、その背景には、大学受験の際の「センター試験」が、2021年度から「大学入学共通テスト」に変わり、今までとは異なった対策を行わなければいけなくなったことや、今までは高校からでも入学することが可能だった難関私立中高一貫校が、高校からの募集を停止し始めていることがあると推測されている。

 2021年10月から日本テレビ系で放送が開始されたドラマ『二月の勝者』は、中堅中学受験塾「桜花ゼミナール 吉祥寺校」の入塾説明会のシーンから始まる。元名門中学受験塾「ルトワック」の講師で、「桜花ゼミナール 吉祥寺校」の校長となった黒木蔵人(柳楽優弥)が、「第一志望校に全員合格させる」と宣言して親や講師陣をざわつかせ、その後講師室では「合格のためにもっとも重要なのは、父親の経済力と母親の狂気」と告げる。あまりにも身も蓋もない発言のように聞こえるが、マンガを読み進めていくと、黒木の発言はあながち間違っていないことが分かってくる。

 原作漫画『二月の勝者』は、前年度の入試直前の桜花ゼミナールの描写から始まる。五角形の消しゴムや鉛筆がお守りとして配られ、生徒みんなで気合を入れる。筆者も中学受験を経験したが、いよいよ受験本番なのだという高揚感を思い出した。

 そして2月1日からの約1週間、中学受験生は戦い続けることになる。マンガの中でも触れられているが、中学受験の定説として、第一志望校に受かることができるのは、中学受験生のうち3割であると言われている。1巻の前半で、その厳しさは読者にも示される。桜花ゼミナール 吉祥寺校のトップの男子生徒が、2月1日の受験で体調を崩し試験がうまくいかなかったと塾で泣き崩れ、これでは「全落ち」だと自信を喪失しているのだ。

 『二月の勝者』の中では、中学受験生はまだたったの12歳の子どもであることがたびたび強調される。毎日のように塾に通い、家に帰ってからも勉強をする。休日は試験を受けたり、志望校別の対策講座に参加する。定期的なテストと、それに伴うクラス替えや席替えで否応なく自分の学力が突きつけられる。模試を受ければ、志望校に合格する可能性がどれぐらいなのか数字で示される。正直言って12歳の子どもにとっては過酷である。そんな過酷な毎日を乗り越えてきた先にある受験本番で力を出せなかったという事実は、子どもの心を簡単に折ってしまう。

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