一条ゆかりの引き出しの多さに驚き 時代を映した名作『有閑倶楽部』の魅力を振り返る

『有閑倶楽部』は時代を映した爽快さが魅力

 9月18日から、北九州市漫画ミュージアムで「一条ゆかり展」が始まりました。少女マンガファンにはもう人生になくてはならない大巨匠ですよね。北九州に飛んで行きたいです。

 一条先生の作品で最も知名度が高いのは恐らく『有閑倶楽部』、ドラマにもなりました。この連載が始まったとき、多くの読者は「!?」と「りぼん」を凝視しながら首をかしげたのではないでしょうか。だってそれまで子どもたちの間では、「一条ゆかり先生の話って暗いよね……」とちょっと文句を言っていたのです。

 『デザイナー』は、そもそも生きるのが辛そうな薄幸の主人公亜実が、なんやかんややって泣いたり叫んだりする話でした。『砂の城』は、幸せいっぱいだった主人公ナタリーに雨あられと不幸が舞い降り、すっかり薄幸顔になって悩んだり泣いたりする話でした。『5愛のルール』に至っては、広告業界の話で、小学生の脳みそでは何が何だか。

 「暗い」と子どもが思うのは当たり前。一条先生は、小学生読者に向かって真剣に、本当に真剣に、女の人生や自立、仕事について説いていたのです。プライドを持って仕事をすること、そして自立とは何かを全力で。

 子どもたちは「暗い」と文句を言いながらも、目が離せませんでした。だってつまらなければ読まなければいいのに、ちゃんと読んで文句を言うのだから、何か惹きつけられるものがあったのでしょう。どの作品も、大人になってから読み返すと、あまりの奥深さに愕然とします。

 『砂の城』を20代中頃に読んだときは、もうナタリーと一緒に墓の前で泣きじゃくりました。失恋した原因を、ナタリーと一緒に自分の未熟さに照らしちゃったんですね。それから作中、「若造は物事の優先順位がよくわからないから、それ故、人を傷つけることもある」といった説教をするおじさまがいるのですが、「そうだそうだ!」と両手で旗を振りました。若いっていうのは傲慢だってことですよ。ああもう、共感しかない!

 さて、そんな奥深い深刻な物語ばかり描いてた先生が、いきなり『有閑倶楽部』です。お金持ちのお嬢様おぼっちゃまたちのグループが、自分たちの財力と知力と体力で、あらゆる困難を解決し、豪快に物語を進めていきます。

 あれ……? おかしいな、一条先生らしくない、ナタリーたちのあの不幸な匂いはいったいどこへ……?

 連載開始は1981年。バブル経済がブクブクと膨れ上がり始めた頃ですね。乱暴に言ってしまえば、「金で解決できないことはない!」みたいな時代です。まさに『有閑倶楽部』を地でいく時代でした。

 物語の舞台は名門の子女が通う聖プレジデント学園(名前からしてもう安易なセレブ感が!)。頭脳明晰な生徒会長の菊正宗清四郎、副会長の松竹梅彌勒はヤクザに顔が利く不良学生でメカマニア、白鹿野梨子は絶望的な運動音痴だけど成績優秀な茶道の師範、野梨子と対照的なのが剣菱悠理は、勉強はぜんぜんだけど身体を動かすことなら何でも来い。あとの2人はお色気担当で、女たらしの美童グランマニエと、銀座のママかってくらい妖艶な黄桜可憐の6人組です。

 第1話では、聖プレジデント学園の女の子に乱暴したおっさんへの復讐劇が繰り広げられました。宝石商を営む可憐の母親がイミテーションの首飾りを売ってしまい、なんとか気づかれずにそれを本物へとすり替えよう! とメンバーたちが画策します。そのついでに、おっさんへの復讐も遂げてしまう。そんなうまいこと行くの? って感じの策略がまかり通っちゃう爽快さが『有閑倶楽部』にはあるんです。

 それまで、ひたすら女の人生の哲学を説いてきた一条ゆかり先生が、突然のジョブチェンジですよ。サスペンスでスリリングな駆け引きを描き出したんです。しかも「人生怖いものなし!」な物語です。どれだけ引き出しが広いんですか一条先生! そしてそのパワーをナタリーに分けてあげてほしい!



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