『ブルーピリオド』美術の魅力はアニメ化でどう表現される? 原作の漫画表現から考察

『ブルーピリオド』美術をどう表現?

 そして本作の魅力を語るうえで欠かせないのは、山口氏の描く繊細で躍動感のある絵の数々であろう。とくに見開きで描かれた一枚絵は、複数のコマで仕切られたページとの対比から大きな迫力と没入感を覚える。

 山口氏の特徴的な表現として、絵を描く八虎が無重力であるかのような空間に漂う描写がたびたび登場する。1巻「【一筆目】絵を描く悦びに目覚めてみた」では早朝の渋谷を描く八虎が、まるで魚のように泳ぎながら渋谷の街を目にする様子が描かれた。

<この絵は 俺の目を通して見た 俺の絵(せかい)なんだ>

 後に美術の道を歩む過程で八虎が発した上記の台詞は、パブロ・ピカソが残した言葉「私は対象を見えるようにではなく、私が思うように描くのだ。」にも似た印象を受ける。自分の世界を描くために対象を観察する芸術家の思考は、現実の物理法則を超越した世界のなかで行われているのかもしれない。

 作品が完成するまでの過程、そして作者の人物像や目にしている世界など。『ブルーピリオド』は数多くの漫画的技法と物語を視覚的に表現することができる漫画の特性を利用し、美術作品の裏側を表現することに成功した作品といえるだろう。

 漫画という形式で表現された『ブルーピリオド』の世界は、アニメという形式によって再構築される。白と黒をベースとなっている描写に色が添えられ、音という新たな情報が加わり、複数のコマによってつくり出された時間の流れは映像によって再現されるだろう。アニメという形式で映される八虎たちの世界によって、より多くの人が美術 の楽しさに気づくことに期待を寄せる。

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