急展開を見せる『怪獣8号』 絶望的な状況にのぞく希望と、作者の人間観を分析

『怪獣8号』絶望的な状況にのぞく希望

 初任務での功績が認められ、正隊員に昇格したカフカだったが、突如、カフカの勤務する立川基地に人型の怪獣(通称・怪獣10号)に率いられた無数の翼竜系怪獣が襲来し、物語は急展開をむかえる。防衛隊員の市川レノと四ノ宮キコルが基地を襲う怪獣たちを引きつけ倒していく中、カフカは怪我人を介護。各小隊も次々と到着し、第3部隊は怪獣を押し返していく。

 一方、保科副隊長は怪獣10号と戦っていた。二刀流で敵を斬りつけ、怪獣を細切れにしていく保科だったが、怪獣10号は巨大化し、測定値はフォルティチュード9.0(怪獣の危険度を数値化したもの。地震におけるマグニチュードのようなもの)を記録。圧倒的な攻撃によって保科は敗北する。しかし保科の戦いは隊長の亜白ミナが到着するまでの時間稼ぎだった。巨大な銃で亜白は怪獣10号を引き飛ばす。しかし、怪獣10号は、超巨大余獣爆弾を発動。爆発すれば仲間たちが危ないと思ったカフカは怪獣8号に変身。

 持てる力をすべて開放し、超巨大夜中爆弾をはるか上空に吹き飛ばし危機を脱する。だが、カフカの正体は防衛隊内部に知られて身柄を拘束されてしまう。怪獣の力を隠してカフカが防衛隊員として戦うという展開がしばらく続くと思っていたため「ここで早くも正体がバレてしまうのか!」という急展開に驚かされた。

 この4巻は、次から次へとカッコいい見せ場が続く、ド派手なアクションバトルの連続で、連載で読んでいる時は毎週どうなるのかとドキドキしていた。だが、こうやって一冊にまとまったものを読むと、カフカを中心とした防衛隊員たちの心の交流が、丁寧に描かれていたことがよくわかる。

 仲間を助けるために迷うことなく怪獣8号に変身するカフカの潔さはもちろんのこと、そんな彼を怪獣だといって排除するのではなく「戻ってくるって信じてますから」と語りかける市川レノや、父親の四ノ宮長官にカフカの「処分撤回」を直談判するキコル。

 何より表向きは厳しく処罰しているように見せながらも、2人になった時に「第3部隊に」「君を怪獣(てき)だと思ってる奴なんて一人もいないよ」と語りかける亜白ミナの優しさ。「俺はまだ」「お前の隣目指していいのか」と言うカフカに、子供の時の表情に戻り「うん」「ずっと待ってる」と返答する亜白隊長の姿にグッときた。

 厳しい表情で強い人間として振る舞っていた亜白隊長が、幼馴染だったカフカが自分を追いかけて防衛隊に入ったことを嬉しく思っていたのは物語の節々で感じられた。隊長という立場ゆえに表に出すことができなかった彼女の本当の気持ちは、カフカが怪獣8号として拘束された時に、はじめて口に出せたのだ。カフカをとりまく状況は過酷で絶望的なものだが、だからこそ浮上した希望もある。作者の人間観が伝わる悲しくも優しい邂逅である。

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