この漫画、シロウトっぽく見えるのはなぜ? 天使と悪魔の美少女が登場する作品がプロの添削で劇的変化

 SNSを通じて多くのクリエイターが漫画を発表し、そこから商業メディアで連載化するヒット作も生まれている昨今。一方で、「独学」ゆえに自身が抱えている問題を修正することができなかったり、そもそも気づくことができなかったりと、悩みを抱えたまま疲弊してしまっているクリエイターも少なくない状況だ。

 そんななか、プロとして活躍する漫画家やイラストレーターがその技術や心構えを伝える動画が人気を博している。YouTubeで多くのクリエイターが注目しているのが、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏のチャンネル。初心者が悩みがちなポイントを解説する動画はもちろん、視聴者から募った作品を「添削」する企画が人気で、いつも相談者の個性に寄り添いながら、「さすがプロ」と唸らされるアドバイスを送っている。読む専門の“漫画好き”にも多くの気づきを与えてくれる内容だ。

 先日、記念すべき100回目を数えたハイド氏の添削動画。最新回のタイトルは『【初心者が次にやること】漫画家志望者が考えるべき「読者が受け取る時間軸」とは 』というもので、動画サムネイルには「個性もセンスもあるのに…シロウトっぽいのはどうして?」という疑問が投げかけられている。試行錯誤してもどこか垢抜けず、プロのようなクオリティにならない……という悩みを抱えるクリエイターは少なくないのではないか。

【初心者が次にやること】漫画家志望者が考えるべき「読者が受け取る時間軸」とは〜No.104〜

 今回添削することになったのは、「画面がつまらなくて初心者感が消えない」という悩みを抱えている、プロの漫画家を目指すクリエイターの作品。天使の女の子が、悪魔の女の子と同じタクシーに乗り合わせている……という微妙な緊迫感のあるシーンで、ハイド氏は「女の子が好きそうな絵柄で、スタイリッシュなセンスを感じる」と評価した。さらに、セリフがコンパクトで独特のリズムがあることが魅力的で、女性向けの作品で重要な「文章のセンス」に優れていることも投稿者の長所で、「読みやすくオシャレ」な作品であると、ハイド氏は語っている。投稿者はまだ漫画を描き始めて間もないそうで、荒削りではあるものの才能が感じられる、というのが全体的な評価だ。

 それでは、具体的にどこを改善すればプロのような作品に仕上げることができるのか。ハイド氏はいつものように、元作品をベースにネームを引き直し、添削していく。第一に指摘されたのは「画力」について。ハイド氏は漠然と「画力を上げろ」というのではなく、あくまで具体的に問題点を明らかにしていく。人物については、正面から捉えたカットは可愛く描けているが、横顔になると作者が変わったかのように作画が崩れてしまっている。正面から見た悪魔の少女は鼻から顎までが小さく描かれているため、小顔に見える。しかし、横顔になるとそのバランスが崩れているから、別人に見えてしまうのだ。

 また、多くの人が苦手としている背景についても添削があった。「パースが苦手」というクリエイターは多いが、実はそれ以前に、「描く対象をしっかり見ていない」という問題があるという。今回の作品についても、タクシーの行灯(ランプ)の形や後部座席の広さなど、「よく見ていない」ことに起因した作画の違和感がある。画力を上げたいのであれば、センスや感覚だけで描くのではなく、例えば背景についても、自分で撮ってきた写真を参考に正しく描画してみる、というのが近道になるようだ。

 さらに、言われてみなければなかなか気づけなさそうなポイントとして、「進行方向」という言葉も飛び出した。漫画は基本的に「右から左に」読んでいくもので、これに合わせて、ハイド氏のネームではタクシーも右から左に進んでいる形で描かれている。進行方向とカメラアングルを合わせることで、読者にとっては読みやすい作品に。こうした配慮が自然にできているかどうかも、「シロウトっぽさ」にかかわるポイントになるようだ。

 動画の後半には、「設定」や「時間軸」というよりハイレベルなポイントも指摘され、作品の投稿者は動画コメント欄で「たくさんの金言そして添削ありがとうございます」と感謝。まだ漫画に取り組み始めて日が浅い中で、ハイド氏も感心したファッショナブルな画風やセリフ回しを生かしながら、さらにパワーアップした作品が生まれそうだ。自分では漫画を描かない人も、後の人気漫画家が誕生するかもしれない添削動画をぜひチェックしてみよう。

■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=0LKjaTn64Q4

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