第165回 芥川賞&直木賞、各受賞作の評価のポイントは? 受賞会見レポート

第165回 芥川賞&直木賞レポ

 日本文学振興会主催の第165回芥川賞と直木賞の選考会が14日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれ、芥川賞は石沢麻依氏(41)の『貝に続く場所にて』(群像6月号) と李琴峰氏(31)『彼岸花(ひがんばな)が咲く島』(文學界3月号)の2作に決まった。直木賞は佐藤究氏(43)の『テスカトリポカ』(KADOKAWA)と澤田瞳子氏(43)の『星落ちて、なお』(文藝春秋)の2作が選ばれた。

 芥川賞受賞の石沢氏は1980年生まれ。宮城県仙台市出身で現在はドイツに住んでいる。東北大学大学院文学研究科修士課程修了、ハイデルベルク大学大学院博士課程に在学中。2021年、本作で第64回群像新人文学賞を受賞し、デビューした。

 受賞作はドイツの大学都市・ゲッティンゲンに暮らす「私」が主人公。コロナ禍が影を落とす異国の街で、東日本大震災の津波で行方不明となったはずの友人が現れる。震災の記憶と時の経過、人を隔てる距離をめぐる作品だ。

 選考委員を代表して松浦寿輝氏は「濃密な非現実観を漂わせる。大変リアルに街の描写や人間関係が描かれていて、文章は非常に凝ったレトリカルな文体」と評した。その文体は選考委員のあいだで賛否があったが、最終的には「全体としては小説にしかできないひとつの世界を作ろうとしている」点が評価されたと語った。

 受賞会見にZoomで出席した石沢氏は「まだ戸惑いで実感が追いつかない。嬉しいというよりは、急な展開に恐ろしい気持ちがある。(先人の作家に続いて)自分の声としてどんな作品を書いていくか、試される部分もあると思う」と語った。

Zoomで出席した石沢氏

 同時に受賞した李氏は1989年生まれ。台湾出身で現在は東京都に住んでいる。第一言語は中国語で、15歳から日本語を学習した。2013年、台湾大学卒業後に来日。フリーの作家・翻訳家・通訳者として活動している。17年に『独舞』で第60回群像新人文学賞優秀作を受賞し、デビューした。今回は2回目の候補だった。

 受賞作の主人公は海辺に流れ着いた記憶を失くした少女。「ノロ」と呼ばれる女たちが司る、男女が違う言葉を学ぶ島を舞台に、言語とセクシュアリティの複数性を描く。

受賞作を手に取る李氏

 選考委員の松浦寿輝氏は「3つの言語を織り交ぜて、共鳴、衝突、混交したりする言語空間を作り上げようとする、野心的な冒険性が評価された」と講評した。また、日本語を母語としない作家が受賞したことについて「政治や経済がボーダーレス化する中で、日本文学は日本語の狭い域を超えて、世界に向かって広がっていくべき」「李さんの受賞は歴史的な意義がある」と語った。

 受賞会見に出席した李氏は「一番感謝したいのは応援してくれた読者の方々。母語でない言語で小説を書くことは大変だが、尊敬する楊逸さん(第139回芥川賞受賞)に次いで受賞したことを光栄に思う。日本文学をアップデートしてきた自負がある」と語った。

 直木賞受賞の佐藤氏は1977年生まれ。福岡大学付属大濠高等学校卒。2004年、佐藤憲胤(のりかず)名義の『サージウスの死神』が第47回群像新人文学賞優秀作となり、デビューした。純文学作家としての活動後、16年『QJKJQ』で第62回江戸川乱歩賞に受賞し、佐藤究名義に改名した。

受賞の喜びを語る佐藤氏

 受賞作『テスカトリポカ』は、神奈川・川崎などを舞台にした壮大なクライムノベル。麻薬密売や臓器ビジネスを取り巻くアンダーグラウンドな世界を、ヴァイオレンス表現を多く交えて描いた。

 選考委員を代表して林真理子氏は、暴力的なシーンなどに批判があり、受賞作とするかで大激論があったが、「これだけスケールの大きな小説を受賞作にしないのはあまりにも惜しい」「このような残酷なことをする人でさえ、神話や物語を作らないといけないことは非常に感銘を受けた。ある意味で希望の物語だ」といった肯定的な評価があったと語った。

 受賞会見で佐藤氏は「このような大きい賞を取るとは頭にもなかった。(過激な描写があり)執筆中に初めて夢にうなされる経験をした。資本主義リアリズムの中での人々の搾取の現実を知ってもらい、(麻薬などの)抑止力となることが社会でのクライムノベルの役割だと思う」と語った。

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