【漫画】ツアーナースの仕事、そのかけがえのない魅力とは? 人に寄り添う姿勢に共感
看護師としての体験が漫画に生きた
ーーツアーナースの経験は、漫画家としても大きな糧となっているように感じました。明さんは看護師3年目から漫画を描き始めたとのことですが、デビュー作の『リヒト 光の癒術師』もファンタジー医療漫画だったように、もともと看護師としての経験を漫画にしたいと思ってスタートしたのでしょうか?
明:『リヒト』は「医療漫画」という意識で描いていたわけでは無いんですよ(笑)。ファンタジーの世界を描きたくて描き始めた漫画でした.主人公を「看護師のような存在」にしたのは、そのほうが自分に近くて描きやすかったからです。
でも連載が始まると、登場人物たちは、私が医療の現場で感じていた色々な思いを語り始めました。はじめは「分かるよ、その気持」と言う感じで、彼女たちに共感しながら描いていたと言う感じです。
そうして描いていくうちに、自分が伝えたいものの一つとして、医療現場で感じた「命の強さ」だったり「はかなさ」だったり、看護師として体験した困難や憤り、嬉しさや楽しさがあるのだと気づきました。そして、漫画に描くことで、それはちゃんと伝わるんだと言うことを、読者さんたちが教えてくれました。
実は看護師になってからは、医療漫画は全く読めなかったんです。現実と比較してしまうし、プライベートは「看護師でない自分」に戻りたかったので。でも、今は漫画家の私にとって「看護師の経験」は強みだし、看護師の私にとっても「漫画で伝える力」は強みだと思っています。
ーー尊敬する漫画家、影響を受けた漫画作品を教えてください。
明:子供の頃は漫画を読む機会があまりなく、どちらかというとアニメが好きでした。『ドラゴンボール』『十二戦支 爆裂 エトレンジャー』『爆走兄弟レッツ&ゴー』などが好きで、絵を描くようになったのはこうしたアニメの影響です。『レッツ&ゴーWGP』に出てくる「ミハエル」が好きだったことから、現在の「明」というペンネームに至った経緯があります(笑)。
中学生の頃には、漫画好きの友人や先輩がいて『るろうに剣心』『封神演義』『スラムダンク』『BASARA』などを借りて読み、「もっと漫画が読みたい!」と思うようになりました。でもこの時期は本を読むことのほうが多くて、中学2年生のときに出会った『クレヨン王国のパトロール隊長』は、私の人生において一番大切な物語です。
最も漫画を読むようになったのは、大人になってからです。萩尾望都先生の『妖精狩り』、田村由美先生の『僕が泥棒になったわけ』、西森博之先生の『道士郎でござる』、市川春子先生の『宝石の国』、末次由紀先生の『ちはやふる』、山田章博先生の『紅色魔術探偵団』など、影響を受けた作品は沢山あります。最近だと『鬼滅の刃』にはもちろんハマりましたし、『SPY×FAMILY』、『乙嫁語り』、『ONEPIECE』、『ダンジョン飯』、『転生したらスライムだった件』、『3月のライオン』など、連載中の作品も大好きなものがたくさんあるので、本棚が足りません!
漫画だけでなく、小説も大好きで、恩田陸先生、綾辻行人先生、小野不由美先生、司馬遼太郎先生などの作品が好きです。去年は待ちに待った『十二国記』の最新刊が発売されて、とても幸せでした!
他にも図鑑や科学誌も、映画も好きで……と、影響を受けた本や作品については語りだすと止まらないので、ここでやめておきます。
ーーツアーナースのお仕事と漫画家のお仕事の両立はすごく大変そうに感じますが、やはり明さんにとってはどちらも欠かせないものでしょうか。
明:私は職業って、あくまでも自分の人生を歩む手段の一つだと考えていて、自分らしい人生を生きることができるのなら、どんな職業だって構わないと思っています。それが今は看護師や漫画家なのだと思います。ちなみに漫画の中では語っていませんが、数年前から「看護師や看護学生が読む教科書を作る仕事」も兼業しているので、3足のわらじですね(笑)。
今この3つをやっているのは、看護師として人と関わるのが好きだし、漫画家として漫画を描いてみんなに読んでもらうのが楽しいし、教科書を作りながら勉強したり、新たな学説や研究について論議するのが面白いからです。もちろん経済的な理由もありますが!
でもそのどれもが、私の人生をより楽しく、より生き生きとさせてくれるなと感じています。だから今は3つともやりたいなと贅沢な悩みを抱えているわけです。もちろん、全部全力投球です。そうでないともったいない!なので、体力が続くかだけが心配です。
もしかしたら、これからも違う職業につくかも知れないし、漫画家か看護師、あるいは教科書を作る仕事のどれかだけになるかも知れません。それが私や私の周りの人にとって、楽しくて幸せな道であるなら、どれを選んでもいいと思っています。
ーー『漫画家しながらツアーナースしています』には様々な反響が寄せられていると伺っています。特に嬉しかった感想はありますか?
明:「子どもたちが真剣に読んでいる」というのを聞いたときには、とても嬉しかったです。「親子で一日一話ずつ読んで、そのあとに感じたことを話し合っています」という素敵な感想もありました。作家冥利に尽きますよね。
学校の先生からも「職員室に置いて、先生たちみんなで勉強しています」「保健室に置いて、子どもたちと一緒に読んでいます」という報告がありました。「図書館に入れました」という報告もあり、子どもの頃図書館が大好きだった身としては、一つ夢がかなったような気がします。
また、作中には持病を持つ子がたびたび登場します。同じ病を患う方々から、「気持ちを代弁してもらった気がする」と、自分の境遇に重ねて読んでくださった感想や、「あの頃の私には、こんな風にいってくれる人はいなかったけど、救われた気がする」と作品が気持ちを癒す助けになった感想を頂いたことがあります。本当に本当に描いて良かったと思いました。
一方で持病がある人の家族や友人から、「どんなふうに接したらいいのか分からなかったけど、ヒントになった」といった感想もいただきました。今回の単行本の第2章で、病気の人を支える人たちのお話も収録しているのは、こうした人たちの気持ちにも寄り添いたかった意図があるので、そんな風に思えるきっかけになれたのなら、漫画家としても看護師としても、とても嬉しいです。
ーー本作をどんな風に読んで欲しいか、改めて教えてください。
明:まずはエンタメとして、漫画を楽しんでもらえたら嬉しいです。ご自身の子どもの頃の宿泊行事と重ねたり、今の境遇と重ねて共感してもらえたら、さらに嬉しいです。その上で、「勉強になったな」や「考えさせられた」がちらっとでもあると、もっともっと嬉しくなります。
大人も子どもも楽しめる内容になっていると思うので、色んな人が、色んな楽しみ方をしてくれたらいいな、と思っています。
■書籍情報
『漫画家しながらツアーナースしています。現役ナース・先生・ママの“推し”セレクション』
明 著
発売日:6月4日
価格:1300円+税
出版社:集英社