“仕事系学園漫画”の面白さとは? 『あおざくら』『銀の匙』が描くリアリティと青春

“仕事系学園漫画”はなぜハマる?

 そして仕事系学園漫画には、学園漫画の1番の魅力である青春の美しさを際立たせる要素もある。様々なメディアミックスもされ、累計発行部数が1,700万部を超える人気漫画『銀の匙 Silver Spoon』。主人公である八軒勇吾は、熾烈な学力競争に疲れ、競争と父から逃げるように全寮制の農業高等学校に入学する。

『銀の匙 Silver Spoon』1巻(小学館)

 本作の舞台となる大蝦夷農業高等学校には、未来の農業や畜産業で羽ばたくことを夢見る、様々な生徒が八軒と共に入学して来た。よって普通科の高校を題材とした学園漫画と比べ、仕事系学園漫画の登場人物は学園生活における「本気度」が強くなるのだ。

 作中で登場する八軒がたまたま見つけたピザ窯を、皆で修復しながら美味しいピザを焼こうと奮闘する場面。北海道の田舎育ちで冷凍ピザしか食べたことのない八軒以外の面々は、是が非でもピザを食べようと手を尽くす。その内容が農業高校の生徒だけあり、チーズから生地から全ての工程が職人レベルの本気だった。そして完成後それを満足そうに食べる生徒や八軒達の笑顔は、清々しく輝いて見える。

 本作では上記した以外にも家畜の世話の大変さや厳しさを知り、食をより有難いものとして楽しむ描写や、文化祭で出す料理を原価計算をしながら試行錯誤する描写も描かれる。適当に過ごしている人間がいないため、喜びも苦悩もより一層引き立つ。つまり専門知識を学ぶ場を舞台にしているからこそ、学園漫画の醍醐味である青春の輝きも増しているのだ。

『食戟のソーマ』1巻(集英社)

 またファンタジー要素を含んだ仕事系学園漫画でも、その真価は発揮される。「週刊少年ジャンプ」で連載していた『食戟のソーマ』も、日本一の料理学校を舞台とした漫画作品である。定食屋の息子である幸平創真は、日本中の料理自慢の高校生がひしめく遠月学園に入学を果たす。さすがジャンプ作品なだけあり、設定は読者を引き込む現実離れしたものになっていた。

 しかし作中には食材や料理の知識が随所に散りばめられている。そして料理を用いた激しい争いが巻き起こる中、全員が本気だからこそ、読者もその結果を固唾を飲んで見守った。現実味を帯びていない設定でも、その魅力を見せられるのも、本ジャンルの長所だろう。

 専門的な知識を本気で学ぶ少年少女を描いた、仕事系学園漫画。知識や熱を伝えながら青春の軌跡も描く本ジャンルは、仕事系漫画と学園漫画の良い所取りをしたジャンルと言っても過言ではないだろう。皆さんもぜひ未知なる学園漫画の世界に、足を踏み入れてみて欲しい。

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