『このすば』に匹敵する“外道な笑い” 暁なつめ『戦闘員、派遣します!』の魅力とは

『戦闘員、派遣します!』外道な笑い

おちんちん祭りとペスト

 『戦闘員、派遣します!』では、笑いがあってパロディがあるだけでなく、エスタブリッシュメントがひたすらコケにされる。

 たとえば王族が雨を降らせる際にアーティファクトに祈りを捧げるときに唱えるパスワード(詠唱の呪文)は、六号によって「おちんちん祭り」に設定されてしまう。

 そもそも、勇者がいなくなったので、王はどこから来たのかもよくわからない悪の組織の戦闘員を傭兵として戦わせる、という時点でふざけている。

 その戦闘員は、組織が地球で世界征服が完了しそうになって存続目的が危うくなった(世界征服を目的とする秘密結社は、征服が完了した時点で存続意義がなくなる)ので「外」に活動場所を求めざるをえなくなって放り出されたという世知辛い事情がある。これは存続自体が自己目的化している企業活動への皮肉である。

 そう考えるとやはり本作はバフチンがラブレーの『ガルガンチュア』などに見いだした精神が息づいていると思える。ラブレーはうんこ、おなら的な下ネタを連発し、ローマ教皇をバカにするフレーズなどを盛り込んだ。くだらない笑いと世の中に対する諷刺を書きまくった。

 ラブレー作品やボッカチオの『デカメロン』をはじめ、ルネサンスの文化は、ペストの大流行と切り離せない。伝染病がもたらした無数の死を乗り越えて生を謳歌する。バカバカしいことを語って笑い飛ばす。そういう力強い意志がある。

 コロナ禍で触れる『戦闘員、派遣します!』の外道な笑いからも、そういう力がもらえるかもしれない。知らんけど。

■飯田一史
取材・調査・執筆業。出版社にてカルチャー誌、小説の編集者を経て独立。コンテンツビジネスや出版産業、ネット文化、最近は児童書市場や読書推進施策に関心がある。著作に『マンガ雑誌は死んだ。で、どうなるの? マンガアプリ以降のマンガビジネス大転換時代』『ウェブ小説の衝撃』など。出版業界紙「新文化」にて「子どもの本が売れる理由 知られざるFACT」(https://www.shinbunka.co.jp/rensai/kodomonohonlog.htm)、小説誌「小説すばる」にウェブ小説時評「書を捨てよ、ウェブへ出よう」連載中。グロービスMBA。

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