薬師の妃、侍女の検視官……『薬屋のひとりごと』人気で後宮舞台の医療もの続々 ラノベランキングを考察

ラノベランキング、後宮医療ものが続々
小野はるか『後宮の検屍女官』(角川文庫)
小野はるか『後宮の検屍女官』(角川文庫)

 新シリーズも登場してきた。第6回角川文庫キャラクター小説大賞で大賞と読者賞を獲得した小野はるか『後宮の検屍女官』(角川文庫)は、薬ではなく検屍の知識を持った後宮の侍女が活躍する。

 皇帝の子を身ごもった妃嬪が、別の妃嬪から虐められ死んでしまった後、棺桶の中で産み落とした赤子が化けて後宮を徘徊しているという噂が立つ。宦官の孫延明が、怖がる侍女たちを叱咤して警備に当たらせようとしたところ、中にまったく怖がらず、「死体が分娩することなんて普通だ」とつぶやいた侍女がいた。それが桃花。

 後宮では、苦悶の表情を浮かべたままで侍女が死亡する事件が続いて起こり、検屍の知識を持っていると知った延明によって引っ張り出された桃花による、検屍からの推理が始まる。美女だがぐうたらで寝るのが大好きというギャップを持った桃花のキャラクター性が強烈で、もっと活躍を読んでみたいと思わせる。

野々口契『笙国花煌演義 ~夢見がち公主と生薬オタク王のつれづれ謎解き~』(二見サラ文庫)
野々口契『笙国花煌演義 ~夢見がち公主と生薬オタク王のつれづれ謎解き~』(二見サラ文庫)

 医学や薬学の知識は、後宮の女官たちばかりが持っている訳ではない。野々口契『笙国花煌演義 ~夢見がち公主と生薬オタク王のつれづれ謎解き~』(二見サラ文庫)では、何と一国の王が薬学の知識を生かし、隣国で発生して王太子の命を奪った奇病の謎に挑み、自国にも迫っていた危機をしのごうとする。ペアとなるのは、死んでしまった王太子に嫁ぐため、遠方から旅をしてきた花琳という名のお姫様。一応の完結は見ているが、出会った2人の行く末や、花琳が連れている宦官で、女装が似合い武芸にも通じた白慧の活躍も読みたいので、シリーズとして続いて欲しい。

■タニグチリウイチ
愛知県生まれ、書評家・ライター。ライトノベルを中心に『SFマガジン』『ミステリマガジン』で書評を執筆、本の雑誌社『おすすめ文庫王国』でもライトノベルのベスト10を紹介。文庫解説では越谷オサム『いとみち』3部作をすべて担当。小学館の『漫画家本』シリーズに細野不二彦、一ノ関圭、小山ゆうらの作品評を執筆。2019年3月まで勤務していた新聞社ではアニメやゲームの記事を良く手がけ、退職後もアニメや映画の監督インタビュー、エンタメ系イベントのリポートなどを各所に執筆。

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