ヨーロッパ最後の独裁国家ベラルーシの実態とは? 『理不尽ゲーム』が暴く不都合な真実
すっかり元気になり、精神は16歳の頃のまま社会に出ていく青年・フランツィスク。彼をはじめとする若い世代から見たベラルーシとはどんな国なのかが、物語の後半で描かれていく。そこで象徴的な存在となるのが、作中で若者たちが興じる流行中の遊び「理不尽ゲーム」だ。
ドイツ人起業家の建てたソーセージ工場の製品が評判となり、国営工場はどんどんシェアを奪われていく。すると、品質が国の定めた規格を上回っている、つまりは違反だということでドイツ人の工場は閉鎖に追い込まれてしまった。
こうしたベラルーシで起きた理不尽な実話を一人づつ発表していく、日本でいうところのテレビ番組「すべらない話」のようなゲームにより、嘘で塗り固められた国家がもはや国民にとって滑稽な存在なのだと明らかになる。その一方で、不正選挙に抗議するデモへの政府の弾圧とそれに恐怖する人々の姿が克明に描かれ、独裁国家の凶暴な一面も浮かび上がる。
自分が今後10年間昏睡状態でいるのと、目覚めたままでいるのと、どちらが幸せなのだろうか。理不尽ゲームが、自国でも成り立ってはしまわないだろうか。本書を読むとそんなことを考えてみたくなり、ベラルーシで今も現実に起きている政治の腐敗や国民への抑圧が決して他人事とは思えなくなる。
■藤井勉
1983年生まれ。「エキサイトレビュー」などで、文芸・ノンフィクション・音楽を中心に新刊書籍の書評を執筆。共著に『村上春樹を音楽で読み解く』(日本文芸社)、『村上春樹の100曲』(立東舎)。Twitter:@kawaibuchou
■書誌情報
『理不尽ゲーム』
著者:サーシャ・フィリペンコ
訳者:奈倉有里
出版社:集英社
https://books.shueisha.co.jp/items/contents.html?isbn=978-4-08-773511-6