『青天を衝け』で注目の渋沢栄一、その思想は子どもたちにも 「日本の歴史」シリーズに学ぶ

渋沢栄一の生涯を漫画で学ぶ

 ところで現在、漫画で読む「日本の歴史」シリーズは――とりわけ「近現代史」の領域で、改めて注目を集めているという。その背景にあるのは、2022年度入学生から高等学校でも導入される「学習指導要領」の改訂に伴い新たに設置されることになった「歴史総合」という科目の存在だ。

 現行教育課程の「日本史A」「世界史A」に代わって新たに設置される必修科目である「歴史総合」。それは、「近現代の歴史の変化に関わる諸事象について、世界とその中における日本を広く相互的な視野から捉え、資料を活用しながら歴史の学び方を修得し、現代的な諸課題の形成に関わる近現代の歴史を考察、構想する科目」であるという。その改訂を受けて、漫画で読む「日本の歴史」シリーズの各版元が「近現代」の内容を再考するにあたって、改めて浮かびあがってきた人物がいる。そう、明治初期に渡海し、西欧の文化や制度を学び、その後「合本会社」や「銀行」の設立という形で、日本経済の発展に大きな役割を果たしてきた「実業家」――渋沢栄一その人である。

 『幕末・維新人物伝 渋沢栄一』の巻末に置かれた「解説」で、監修者=加来耕三は、次のように書いている。

 「明治の後期から大正にかけて、日本人の暮らしがこの時期ほど、豊かになった時代はかつてなかったろう。日本人は物質的な豊かさを得た。だが、心の豊かさはどうか。経済も同じだ。企業は利潤を追求するが、その根底に正しい道徳がなければ、企業は不正のなかに倒れ、社会的に存続することは許されない」

 『論語と算盤』という談話録の書名が示しているように、渋沢栄一という人物の核には、『論語』を徳育の規範として「道徳経済合一説」を提唱・実践しようとする「思想」があった。本作の漫画の中でも、渋沢栄一の台詞として、「道徳なく利益のみを追い求める社会は、たちまち荒廃する」、「利益は皆で共有してこそ天下国家を動かす」といった言葉が登場する。利潤追求型の企業ではなく、そこで得た利益によって、社会にどう貢献していくかを考えること。

 実際、渋沢栄一は、いわゆる「財閥」を築くことなく、むしろその形態を嫌いながら、新しい時代の中小企業経営者の育成に尽力した人物なのだ。「日本の近代資本主義の父」であると同時に、昨今多くの企業で提唱されるようになった「CSR(企業の社会的責任)」という観点からも、実は昨今、大きな注目を集めている渋沢栄一。その「思想」は、子どもたちはもちろん、大人たちにとっても、今改めて振り返られるべき「原点」なのかもしれない。

■麦倉正樹
ライター/インタビュアー/編集者。「リアルサウンド」「smart」「サイゾー」「AERA」「CINRA.NET」ほかで、映画、音楽、その他に関するインタビュー/コラム/対談記事を執筆。Twtter

■書籍情報
『幕末・維新人物伝 渋沢栄一』コミック版 日本の歴史(77)
企画・原案:加来耕三
原作:後藤ひろみ
漫画:中島健志
定価:本体1,000円+税
出版社:ポプラ社
公式サイト

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