『アップトゥボーイ』編集長が語る、グラビア誌の矜恃 「ファン層が変化しても、王道は追求していきたい」

『アップトゥボーイ』編集長インタビュー

 2021年2月に通巻300号を迎えた『アップトゥボーイ』。裏表紙には、創刊から299号までの表紙がズラリと並んでおり、眺めているだけで長い歴史を感じる。1986年3月に発売された創刊号の表紙は、初代ミス・アップ(元Winkの相田翔子や鈴木早智子などを輩出した誌上オーディション)の勇直子。内田有紀、広末涼子、モーニング娘。、AKB48、乃木坂46など、時代の流れに沿って顔ぶれは変化しつつも、昭和、平成、令和を跨ぎ、いつの時代も各世代を彩る女性タレントの存在があったのだ。

 2020年は新型コロナが猛威を振るい、世の中が一気に沈み込んだ。あらゆる業界がダメージを受けるなか、特にエンタメは不要だと囁かれることもあった。そんななか、300号を迎えた老舗エンタメ雑誌である『アップトゥボーイ』は、今の時代、そして301号からの雑誌のあり方をどう見ているのだろうか。現在、同誌の編集長を務め、アイドル写真集の編集も多く手がけてきた一坊寺麻衣氏にインタビューを行った。(とり)

雑誌が存在する意味

一坊寺麻衣氏(撮影=西村康)

――改めて『アップトゥボーイ』通巻300号、おめでとうございます。一坊寺さんが編集長になられたのはどの号からでしょうか。

一坊寺:2014年に発売された6月号からです。乃木坂46が弊誌で初めて表紙を飾った号です。

――先月発売された300号は女優の広瀬すずさんが表紙を飾られていますが、この人選について伺えますでしょうか。

一坊寺:表紙は雑誌の顔なので、話題性や時代の流れを見て「今、その人が表紙を飾る意味」を考えながらキャスティングをしています。また節目の号はこれまで、女優の広末涼子さん(1999年発売/100号)、鈴木愛理さん(当時°C-ute)と渡辺麻友さん(当時AKB48)のツーショット(2010年発売/200号)、それぞれ当時を象徴する女性タレントさんに表紙を飾っていただきました。特に200号は、老舗アイドルグループのハロー!プロジェクト(以下、ハロー!)と当時最も勢いのあったAKB48の初コラボ。この試みは大きな反響を呼びました。そこで300号の表紙を考えたときに、2020年代は、絶対に広瀬すずさんにお願いしたかったんです。もちろん国民的女優としての知名度もありますが、新しい作品に向けて雰囲気もガラッと変え、少女から大人の女優さんへと成長を見せてくれている彼女。300号という歴史や時間の経過をテーマにすると、今、表紙を飾っていただくのに最も相応しい方だと思います。

 ただ今回は、通巻300号を記念して、5号前の296号からカウントダウンスペシャルも行ないました。その第一弾である296号は、長年弊誌を支えてくれたハロー!からモーニング娘。’21のメンバー全員。第二弾の297号は新しいグループ名になったばかりの櫻坂46から、小林由依さん、森田ひかるさん、渡邉理佐さん。第三弾の298号は、日向坂46の金村美玖さん、小坂菜緒さん。そしてラストの299号は「乃木坂46大特集号」として、オーディション時に『アップトゥボーイ賞』を受賞した、乃木坂46の遠藤さくらさんが表紙を飾ってくれました。また新たなスタートでもある301号は、乃木坂46の齋藤飛鳥さん。

このように通巻300号は、多くのアイドルグループのみなさんも、一緒に盛り上げていただいたんです。本当に感謝しています。

――一坊寺さんが編集長になられてからの表紙をざっと見返しても、ハロー!や坂道グループなど、アイドルの方がほとんどだったので、女優の広瀬さんの抜擢には意外性も感じました。

一坊寺:今も昔も、アイドルや女優といったジャンルに縛られず、その時代をときめく女の子たちが登場している雑誌でありたいと思っています。それに今は、その垣根はあまり感じませんよね。多くのアイドルがファッション誌で専属モデルを務めていたり、女優さんでも歌手活動をされていたり、多様性の時代。これからも『アップトゥボーイ』らしさをなくさず、個としての魅力や才能を引き出して、読者のみなさんにも末長く楽しんでいただけるよう努めていきたいです。

――実際に編集長になってから、雑誌との向き合い方は変わりましたか?

一坊寺:以前は「こんなページが作りたい!」という想いだけで突っ走ることもありましたが(笑)、編集長になってからは、読者に何を伝えるか、どう響くかを意識して誌面作りに臨まなければいけないと、より感じるようになりました。ページ数は関係なく、被写体の魅力を伝えられなかったら、雑誌としての役割を果たしていないと思うんです。自己満足で終わらずに、出てくれた方にとって意味のあるページにしなければならない。グラビア編集者として大事にしているのは、100人中1人にでも伝わればいいのではなく、100人全員に伝わることを目指していくことです。

――編集の仕事をしていると、自分の好みに寄ったページにしてしまいがちですが、読者の方に見てもらえないと意味がないですもんね。そのなかで、一坊寺さんなりに他の雑誌と違うこだわりやポイントはありますか?

一坊寺:『アップトゥボーイ』は写真集と同じクオリティーの紙質やサイズ感を重視し、とにかく「顔」を綺麗に見せることを大切にしています。通巻300号を経て培ってきた弊誌なりの王道、すなわち『アップトゥボーイ』らしさはそこにあり、やはり譲れないポイントです。

 またキャスティングにおいては、旬の女性タレントの他、これから磨かれていく原石と初めて出会える雑誌でありたいという想いもあります。300号にも登場している女優の白石聖さんは、スカウトされたばかりの2016年に自身初めてのグラビア撮影から始まって、1st写真集『白石聖 2016-2020』の制作まで担当させていただきました。女優の真野恵里菜さんはデビュー前から、ご結婚を経て今も。ハロー!のメンバーもそうですが、デビュー日や研修生時代から長年追いかけ続けて、読者と共に成長、もはや人生までも見守っていくことが弊誌の特徴かもしれません(笑)。5年の休業期間から昨年復帰した鞘師里保さんは、再始動の場として弊誌を選んでくれました。そんな彼女たちの成長や状況に応じて、ロケ地や撮影スタイルも変化させ、次に繋がるようなぺージ作りをすることが重要ですし、楽しみでもあります。現在発売中の301号からは、モーニング娘。9期・10期4人の連載が始まりました。4人は今年、デビュー10周年を迎えますが、実は10年前も連載をしていたんですよ(当時はメンバー8人)。そのときとは全く違うテーマで、大人になった彼女たちをどう表現していくか……ご期待下さい。

コロナ禍でのアイドルと雑誌の変化

2011年4月売りの予定だった号

――新型コロナによる緊急事態宣言が出され、リモートワークが普及しましたが、エンタメ業界は基本的に対人で行われる仕事が多いですよね。影響は大きかったですよね。

一坊寺:緊急事態宣言が出された昨年4月は、撮影が完全にストップしましたが、1年後に300号記念号が控えていたので、そこまではどうしても途切れさせたくなくて、早めに進行していたものでなんとか持ち堪えました。

――さらに今年は、東日本大震災からちょうど10年です。当時、震災の影響で1号発刊できなかったことを思い出しました。

一坊寺:その年の4月売りの号は、300号の歴史でも1度だけ発売できませんでした。出版流通が止まっていたので、物理的に発刊が不可能だったんです。そのため2011年の6・8月号は発売が6月にも関わらず、当時°C-uteのメンバーだった鈴木愛理さんの季節外れの桜が表紙。実は3月11日の午前中に撮影場所から戻ってきたときの写真でもあり、鈴木さんのまっすぐな視線が印象的な号になりました。

――震災のときも世間に閉塞感が漂いどうなることかと思いましたが、今こそ団結して頑張ろうという想いから、比較的すぐに撮影は再開されましたよね。そう考えると、新型コロナはまだまだ終わりが見えず、不安です。

一坊寺:初めて体験することですから、雑誌やエンタメ業界に関わらず、不安は大きいですよね。雑誌として今できることは、なるべくこれまでと変わらずに、この時代を乗り越えていくことくらいです。撮影場所、方法なども限られていますが、制限がある分、今まで以上にアイデアを生み出していかなければならないと感じています。

――世の中の状況が変わったことで、他に何か変化はありましたか?

一坊寺:ステイホーム期間に、YouTubeやオンライン配信を見て、はじめてアイドルのファンになりました、という声を多くいただいています。街ではみんなマスクをしていて、目元しか見えない状態ですが、誌面や配信で見るアイドルのさりげない表情の一つひとつが、誰かの心の支えになっていたんじゃないでしょうか。コロナ禍で「エンタメは不要不急」だと言われることもありましたけど、辛い時期を乗り越えるためのパワーがここにはあると改めて実感できました。弊誌においても、世の中に希望や笑顔を少しでも与えることができていたのなら、発刊を続けて良かったです。

――オンライン配信が、アイドルに縁のなかった人とアイドルを繋げるきっかけになったのはうれしい話です。ステイホームがあってから、SNSやYouTubeなどのオンラインサービスがより強い影響力を持つようになってきたことは、やはり感じますよね。

一坊寺:自らのタイミングで自由に、自分自身を発信できる時代です。かつては雑誌などから最新情報を得ていましたが、今は断然ネットの方が速いですし、月刊誌にニュース性は求められていません。そのため、より雑誌ならではの見せ方を考える時期であると思います。

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