『HUNTER×HUNTER』ゾルディック家の影響も? 『夜桜さんちの大作戦』の“異能バトル”を考える
もう一つ、このエピソードで重要なのが、死んだと思われていた夜桜家・父の存在だ。今回の戦いは、六美の血で太陽を「覚醒」させるために彼が仕組んだもので、太陽の負傷も「冬ごもり」の発動も、彼の仕業だった。その目的はいまだ不明だが、本作の最重要人物の一人であることは間違いないだろう。
凶一郎は父親が持つ(夜桜家当主と同じ権限を行使できる)「桜の指輪」を奪うために戦いを挑むが、暗器「鋼蜘蛛」を用いた技は通じず、なんとか指輪は取り戻したものの、父親には逃げられてしまう。
凶一郎が父親との戦いで見せた「凪嵐」や次女のニ刃が繰り出す「春一番」など、この巻の戦いでは、夜桜一家の大技が次々と披露される。太陽が六美の血で覚醒したように、本作も異能バトル漫画として覚醒したように感じた。
その後、物語は今までのコミカルな展開に戻る。6巻最後のエピソードは夜桜家の面々が、温泉に遊びに行く話で、六美が太陽に「お風呂 一緒に入ろっか」と言う、甘い展開で終わるため、振り幅が極端な漫画だと思うのだが、このような緩くて楽しい展開があるからこそ、シリアスなバトルが生きるのだろう。
今回、改めて感じたのは、今も断続的に少年ジャンプで連載されている冨樫義博の『HUNTER×HUNTER』からの影響だ。おそらく、家族全員がプロのスパイという夜桜家は、『HUNTER×HUNTER』に登場する家族全員が暗殺者であるゾルディック家の人物配置に強い影響を受けているのだろう。
『呪術廻戦』や『アンデッドアンラック』など、現在のジャンプは『HUNTER×HUNTER』の影響を強く感じさせる作品がいくつかあるが、影響を受けている部分が微妙に異なり、その違いがそれぞれの作家の個性となって現れている。おそらく作者は、殺し屋一家の歪んだ家族愛の物語に思い入れがあるのだろう。バトル色が強まった6巻は、その影響が強く現れており、今後の展開が楽しみである。
■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。
■書籍情報
『夜桜さんちの大作戦』(ジャンプコミックス)6巻
著者:権平ひつじ
出版社:集英社