いしわたり淳治×狩野英孝 特別対談:作詞家が分析する、50TAの歌詞の面白さとは?

いしわたり淳治×狩野英孝 特別対談

言葉の“新しい使い方”が生まれる瞬間

狩野英孝
狩野英孝

――いしわたりさんの新刊には、歌詞だけじゃなく、芸人さんのテレビの発言で気になった言葉をもとにしたコラムもありますよね。

狩野:僕も読ませてもらいました。やっぱり言葉に対してのアンテナがすごいですよね。たとえば、バイきんぐの小峠さんが言った「気だるい味」とか「味が遠い」もそうで。僕らがやってるバラエティーでは笑いになってそのまま流れちゃうんですけれど、そこをピックアップして分析するのがすごいなと思います。あれは職業病なんですか?

いしわたり:だと思います。本来だったら「味が遠い」っておかしな表現じゃないですか。だけど「味が遠い」って言われて意味がわかんない人がいないっていうことが、言葉の可能性を広げていると思っていて。たとえば女性ファッション誌で最近見たんですけれど「身体のラインを拾わない服」っていう言葉があるんですよ。身体のラインが「出る」とか「出ない」じゃなくて、それを「拾わない」と言う。でもみんなすぐに意味がわかりますよね。これって言葉の使い方の進化だと思うんです。そういうコンセンサスが世の中に広まれば、歌詞の世界も可能性がまた広がる。そういう言葉の新しい使い方が生まれる瞬間を見るのがすごく楽しいんですよね。

狩野:僕なんかは「身体のラインを拾わない服なんですよ」って言われても「あ、そうですか」って言って先に進んじゃいますからね。そこで頭の中で一回ブレーキを踏むのがすごいなって。

――いしわたりさんにとって、芸人さんの言葉が気になる理由はどういうところにあるんでしょうか?

いしわたり:単純に話のプロだからってことだと思います。僕らが喋ってる量とは比べ物にならないぐらい芸人さんって喋ってると思うんですよね。やっぱ場数の違いは絶対ありますよね。

狩野:そうなんですよね。たしかにツッコミのワードもどんどん新しいのが出てくるというか。僕が振られて「えっと、あの、えー…」みたいに言ってると「陸でおぼれてるヤツ初めて見たわ」とか言われて、それで笑いが起きたりする。そういう言葉の産み合いになってきてますもんね。

いしわたり:いろんな事が一般化するっていうことが僕は好きなんだと思います。いろんなタイプのクリエイターの人がいると思うんですけれど、僕は多分、音楽と世の中の接点が好きなんだと思うんですよ。音楽が世の中でどういう化学反応を起こしたり、どういう風に機能するかを考えることが好きなんでしょうね。

――本の中にもありますが、音楽とお笑いを比較する観点も多いですよね。「音楽から流行語が生まれてほしい」ということも書かれています。

いしわたり:そうなんですよ。やっぱり流行歌っていうものがある方が健全だと思ってるんですよ。DA PUMPの「U.S.A」が流行った時は「あ、流行歌らしい流行歌が出てきた。嬉しい」って思ったんですよ。なぜかというと、音楽全体に勢いがなくなってしまうと、良いアーティストも出てこなくなるし、シーン全体が冴えなくなっていく。それは嫌なので、どっかでお祭りが起きててほしいんですよね。お祭りがあって、それとは違う価値観を打ち出す人が出てくるのは健全だと思うんです。でも、全員が怖い顔でシリアスな歌を歌って、それで競い合うというのは、エンターテインメントとしては歪というか、つまんないなと思っちゃうんですよね。しかも、例えば「ダメよ~ダメダメ!」っていうのは歌じゃなくてフレーズですよね。でも「♪なんでだろう~」とかになってくると、これは歌なんですよ。「そんなの関係ねぇ」は歌なのか、歌じゃないのか、ちょうど中間くらいかもしれないですけど――。

狩野:リズムに乗せてるし、確かに歌と言えば歌ですよね。

いしわたり:そういう流行語って、なんでプロは作れなかったんだろうって思っちゃうんですよね。パンクバンドが「そんなの関係ねぇ」って歌って、それが流行語になることだってあって然るべきなんじゃないかって。

――それで言うと、ここ最近は「U.S.A.」がそうですし、瑛人さんの「香水」も「君のドルチェ&ガッバーナの その香水のせいだよ」というフレーズが流行になりましたよね。そういう曲が増えているような気もします。

いしわたり:確実に出てくるようになりましたね。これにはすごく元気を感じてます。やっぱり一つ大きいのは、音楽の聴き方がCD主体だった時代が長くあって、ようやく過渡期を超えたんだと思います。サブスクで聴くのが基本なんだっていう世の中にようやくなった。そのことによって、新しい音楽のニーズ、聴かれ方、機能の仕方が生まれて、それが固定されつつあるんだと思います。TikTokでバズるとか、まさにそういうことですからね。

狩野:そうですね。でもどうなんですか? 僕の世代だとみんなCDを買ってたわけですけれど、ジャッジの仕方が再生回数になってきたわけじゃないですか。そこには寂しさとかあったりしませんか?

いしわたり:僕は全然ないです。やっぱり時代とともに絶対変わっていくものですから。「Lemon」も「白日」もそうですけど、今のヒット曲って、イントロがないんですよね。いきなり歌が入る。それって、再生したときに余計なものがあるとどうせ飛ばされてしまうからだと思うんですよ。

狩野:なるほど! DISH//の「猫」もそうだ。

いしわたり:さらに言えば、TikTokは曲のBメロの真ん中をいきなり切り取ったりするわけじゃないですか。それくらい機能的であるほうが、今の時代の音楽ってことなんだと思います。

狩野:なるほどなあ。めちゃくちゃ勉強になりました。たぶん次の曲はイントロなしで作ると思います(笑)。

■書籍情報
『言葉にできない想いは本当にあるのか』
著者:いしわたり淳治
出版社:筑摩書房
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