『呪術廻戦』はなぜ“学園漫画”である必要があった? 授業=実戦の呪霊退治を考察

『呪術廻戦』が学園漫画である必要性とは

 かつてライトノベルで「学園異能」という、異能力を持つ少年少女が集った学園を舞台にした作品が流行ったことがある。これは学園(学校)が、ほとんどの若者の共通体験の場として機能しており、物語世界にすんなり入っていけたり、舞台等の詳しい説明が不要という利点があった。少年漫画である本作も、そうした利点を踏襲しているのかもしれない。

『呪術廻戦』11巻
七海建人

 だが、それだけではないようだ。第3巻で、虎杖が、一級呪術師の七海建人と一緒に行動する場面に注目してみよう。呪霊との戦いで、「勝てないと判断したら呼んでください」と七海はいい、「ちょっとナメすぎじゃない?」と応える虎杖に、「私は大人で君は子供」「私には君を自分より優先する義務があります」と諭すのだ。

 七海は教師ではないが、虎杖が彼のことを“七海先生”と呼ぶ場面もある。これだけで、虎杖と七海の関係性は明白だろう。大人と子供。教える者と学ぶ者。大人たちの薫陶を受け(五条には個人的な思惑もある)、若者たちが成長していく。それを十全に表現するために、学園漫画という枠組みが必要だったのではないかと思うのである。

 さらに、キャラクターの強さにも目を向けたい。祖父の遺言を守り、人のために戦う虎杖。しかし彼の強さは発展途上だ。今のところ作中最強といえるのは五条だろう。常に強大な敵に立ち向かう虎杖や、他の呪術師たちの戦いは、いつ誰が死んでも不思議ではないものばかり。だから夢中になって読んでしまうのだ。また、最強の存在である宿儺の扱いは難しいのだが、作者は要所で巧みに使用している。ストーリーの組み立ても抜群なのだ。

 そんなストーリーテラーぶりが爆発したのが、第10巻から始まった「渋谷事変」だ。いままでに登場した敵と味方が渋谷に集結。三つ巴、四つ巴の戦いを繰り広げる。この原稿を書いている時点で連載は続いており、どのように決着するのか分からないが、多数の人物の絡ませ方には感心するしかない。

 そしてここからは予想になるが、「渋谷事変」も本作の通過点に過ぎないはずだ。まだまだ多くの謎があり、掘り下げられていないキャラクターもいる。だから、これからさらに深まるであろう『呪術廻戦』の世界を、リアルタイムで追いかけていきたいのである。

■細谷正充
 1963年、埼玉県生まれ。文芸評論家。歴史時代小説、ミステリーなどのエンターテインメント作品を中心に、書評、解説を数多く執筆している。アンソロジーの編者としての著書も多い。主な編著書に『歴史・時代小説の快楽 読まなきゃ死ねない全100作ガイド』『井伊の赤備え 徳川四天王筆頭史譚』『名刀伝』『名刀伝(二)』『名城伝』などがある。

■書籍情報
『呪術廻戦』(ジャンプ・コミックス)既刊13巻発売中
著者:芥見下々
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/jujutsu.html

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「書評」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる