『ジョジョの奇妙な冒険』岸辺露伴、トリックスターとしての魅力とは? 正義と悪の二面性を考察

岸辺露伴というトリックスターが生んだ怪作

荒木が選んだ「題材」

 さて、『ダイヤモンドは砕けない』初登場時の岸辺露伴は、「20歳の人気漫画家」という設定だが、(今回ドラマ化された)彼が主人公を務めるスピンオフの短編シリーズ、『岸辺露伴は動かない』では27歳と、少年漫画の主人公としてはやや高めの年齢である(注・ただし、年齢や年代が明記されていない短編や、「外伝」というよりはパラレルワールドの物語と考えたほうがいいような話もある)。そのせいか、トリックスターにしてはどことなく「常識」を身につけているようにも(つまり、少々「大人」になったようにも)見えなくはないのだが、それでも、彼特有のエキセントリックさと、旺盛な好奇心は健在だ。

 それにしても、この岸辺露伴を主人公にした短編の数々を描くために、荒木が選んだ「題材」のなんと自由なことか。

 露伴が(「ヘブンズ・ドアー」も使わずに)イタリアの教会の懺悔室で、ひたすら恐ろしい「告白」を聞くことになる『懺悔室』や、道路の通じていない謎めいた山奥の屋敷で、「マナー」が正しいか正しくないかを試される『富豪村』なども、「よくぞこんなネタで1本描き切った」と思える怪作だが、とりわけ『密漁海岸』という作品の奇想ぶりは圧巻だ。

 どういう内容かは題名からだいたいお察しいただけることと思うが、要するに主人公が「アワビを獲(盗)りに行くだけ」の物語を、エンターテインメント作品としてここまでおもしろく仕上げることのできる漫画家を、私は寡聞にして荒木飛呂彦のほかに知らない。岸辺露伴の活躍を(といってもタイトル通りあまり「動かない」のだが……)、もっともっと見たいと思う。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

■書籍情報
『岸辺露伴は動かない』
荒木飛呂彦 著
定価:本体460円+税
出版社:集英社
公式サイト

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