全788ページの大著が11万部突破! 『独学大全』担当編集者に訊く、”高くても分厚い本”が売れるワケ
「分厚い」ことを強みにしてみよう
――『独学大全』は全788ページで、とにかく分厚い印象ですが、元から分厚い本にする予定でしたか?
田中:大全の名を冠しているので、ある程度厚くなると思っていましたが、ここまで厚くするつもりはありませんでした。最初のうちは私もびびって、もうどうにかして削らないと……と思っていたのですが、だんだん全体を読んで学んでいくうちに、ごく一部を削って済ませられる本ではないんだと気づいたんです。それで、途中から薄くするのは諦めました(笑)。読書猿さんの「圧倒的な狂気」みたいなものを形に表現した方が、この本の強みになるんじゃないかと思うようになりました。
分厚くなった理由はいくつかありますが、当然ながら一番大きいのは、元の原稿がすごく充実していたからです。本書の構成として、学びの技法の後に解説がついています。技法の部分は、あくまでマニュアルであり、マニュアルの後に、学術的な根拠や、どこから引用してきたか、あるいは、読書猿さんが開発したものでも、どういう学問的な背景をもとにこの技法が編み出されたか、というのを丁寧に説明している。実はその解説部分が、読書猿さんならではの持ち味であり、『大全』と名乗る根拠なんです。「僕はこの勉強法で成功しました」といういわゆる「成功者本」と最も違う点ですね。
さらに編集的な目線から、難しい箇所はわかりやすくしようと図を入れたり、先ほどお伝えしたような、私と読書猿さんとのやりとりを原稿に反映するなど文章を足していった結果、ページがさらに増えていったという感じです……。
――編集上の工夫をもう少し詳しく教えてください。
田中:私が一読者として好きなのが、「無知くんと親父さんの対話」です。もとになる文章が読書猿さんのブログにあったので、これは面白いなと思い、「読者が技法に入りやすくするために他にもぜひ書いてください!」と読書猿さんに提案しました。無知くんの質問には、読者が聞きづらいこと、恥ずかしいけど知りたいことを、とにかく入れてもらいました。
あとは、読書猿さんとのやりとりから生まれたページもあります。284ページに「運に頼らない本の選び方」という項目があるんですが、私が質問したのがきっかけで、追加で書いていただくことになりました。
初めて原稿を読んだとき、一体なぜ、本を選ぶ前に「事典」「書誌」「教科書」の3つのツールを使う必要があるのか、理解ができなかったんですよね。それで、「なぜ、いきなり本を選んではいけないんですか?」と読書猿さんに聞いたんです。すると「ほとんどの人は、勉強するときに参考書とかいろいろな書籍を選ぶんだけど、それらを主体的に、体系的に選べている人というのはいないんですよ。本選びを偶然や運に任せてしまっているようなものなんです」という答えが返ってきて、驚いたんです。「えっ、そうなんですか? では、その前提を書いてください」という感じで、追記が決まりました。
これはごくごく一部の例で、疑問出しすると読書猿さんが想定の10倍くらいの分量で打ち返してくださるということが多々ありましたね。私自身がまさに独学について勉強しながら、本を編集しているという感じでした。