川上未映子、柳美里、村田紗耶香、松田青子……世界で評価される日本人作家、その理由は?
なお『おばちゃんたちのいるところ』は切実さの高い3冊に比べ、読み心地が軽妙で笑わされる場面も多い。
というのも、収録されている17編はすべて歌舞伎や落語、民話をもとにした「おばけ話」だからだ。怨念や嫉妬の力強さを見こまれ雇われた幽霊たちが、追い詰められた人間のもと、ときにひっそり、ときに堂々とあらわれ、手助けをする。その姿からは、社会の枠組みから自由になりさえすれば、こんなにも軽やかに自分の道を邁進できるのか、と感じられるし、こんなふうにひらりと境界を飛び越え、手をとりあって生きていきたいものだ、と思う(幽霊は死んでいるけれど)。
そして何より、物語の定型や常識を次々とひっくりかえしていくその展開が、ただただおもしろい。元ネタを知っていればなおさら「えっ、この話がこんなふうになるの⁉」と驚くはずだ(どうせなら海外の方々にも、元ネタをセットで知っていただきたい)。
しかしそれは他の3冊も同じで、さんざん分析めいたことを書いてはみたが、日本の小説が4冊も選出された理由は、単純に“おもしろい”は言葉も文化も超えるからに他ならない、ということにしておきたいのが本音である。
■立花もも
1984年、愛知県生まれ。ライター。ダ・ヴィンチ編集部勤務を経て、フリーランスに。文芸・エンタメを中心に執筆。橘もも名義で小説執筆も行い、現在「リアルサウンドブック」にて『婚活迷子、お助けします。』連載中。
■書籍情報
『おばちゃんたちのいるところ Where The Wild Ladies Are』
著者:松田青子
発売中
価格:本体640円(税別)
出版社:中央公論新社
公式サイト:http://www.chuko.co.jp/bunko/2019/08/206769.html