伝説の音楽漫画『To-y』が次世代の漫画家たちに与えた影響とは? トリビュート本『TRIBUTE TO TO-Y』が伝えるもの

『TRIBUTE TO TO-Y』

 そして、浅田弘幸の『sonatine』。誤解を恐れずにいわせてもらえば、これは、上條から信頼されている浅田のような作家でなければ、描くことの許されないたぐいの作品だといえるだろう。なぜならば、同作はいわば“その後の『To-y』の物語”であり、描いた浅田のほうでも、それなりの覚悟を持って執筆に挑んだものだと思われる。しかしながら、というべきか、それゆえに、というべきか、仕上がった作品の出来は圧倒的に素晴らしく、本作で描かれている「うたいつづける」という力強いテーマは、原作の『To-y』だけでなく、たとえば『I’ll〜アイル〜』のような作品で、浅田が描いてきたそれにも通じる部分があるといえよう。

 そんな浅田の作品とは逆に、上條淳士が今回描き下ろした『風の道』は、“『To-y』以前の物語”だった。1978年、秋――父親に連れられて故郷を離れ、東京(新宿)を目指す9歳の藤井冬威(とそれを見送る親族たちの様子)を描いたショートストーリーだが、ある場面で彼の母親がいう「生きていればいつかは会えます」というセリフは、きっと数多くの読者の胸を打つことだろう(これもまた、先に述べた「うたいつづける」という『To-y』本編のテーマにも通じるものだ)。

そして、冬威の父親の「顔」に衝撃を受ける人も少なくないと思うが(私もビックリした!)、これについては、すでにお読みの方は、(これから読む人たちのために)SNSなどであまりネタバレしないほうがいいと思う。

 いずれにせよ、本書を読めば、およそ35年前に上條が描いた、「何があっても、生きて、うたいつづける」というテーマが、次の世代の漫画家たちにも受け継がれていたということがはっきりとわかる。夭折こそがロックの美学だと考える向きも少なくないだろうが、個人的には、(たとえばローリング・ストーンズの面々のように)老いてなお転がりつづけることのほうがロックだと考えている。藤井冬威というシンガーがいまでも武道館を満席にするほどの人気を保っているかどうかはわからないが、少なくとも、どこかのライブハウスでうたいつづけているのは間違いないだろう。そう――生きていれば“音楽(うた)”が鳴り止むことはないし、その生き様は、次の世代の心にも大きな“何か”を刻み込むものなのである。

■島田一志
1969年生まれ。ライター、編集者。『九龍』元編集長。近年では小学館の『漫画家本』シリーズを企画。著書・共著に『ワルの漫画術』『漫画家、映画を語る。』『マンガの現在地!』などがある。Twitter

■書籍情報
『TRIBUTE TO TO-Y』
定価:本体3600円+税
出版社:小学館
公式サイト

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