Twitterでブレイク『私のジャンルに「神」がいます』はなぜ支持された? 同人活動が教えてくれる、創作の意味

『私のジャンルに「神」がいます』レビュー

褒めることの大切さ

 同人活動は好きだからやるもの。もし誰にも読んでもらえなくても、自分の純粋な喜びのためにやっているのだから、それでも構わない。そう考えていたとしても、やっぱり誰かに褒められると嬉しいし、創作意欲も増す。同人文化を支えているのは、「褒め」の文化なのだということも本作は描いている。

 本作に登場するツイッターアカウント「おけけパワー中島」は、気さくな言葉と態度で「神」と呼ばれる書き手、綾城さんの作品をほめる。それがどういうわけか癇に障る印象を与えるのだが、そのちょっとした「褒め」が実は作家たちの救いになっていることを描いているのが本作の美点だ。中島のツイートが気に入らない主人公たちも、やはり誰かに褒められることで創作する喜びを実感するのだ。

 「褒め」が創作者にとって大事だと筆者は学生時代に教わった。筆者が通っていた映画学校の当時の校長は、教育理念として「学生の実習作品は何がなんでも褒める」という信念の持ち主だった。どれだけどうしようもなく、目も当てられないほどに稚拙な出来でも、隅々までくまなく作品を見つめ、良いポイントを絞り出して褒める人だった。それはもはや職人芸の域に達しており、「そんな見方があるのか」と何度も驚かされたものである。

 当時の校長は、佐藤忠男という高名な映画評論家だったのだが、その着眼点の多彩さと絶対に褒めてみせるという尋常でない気迫に、学生時代の筆者は圧倒され、プロの評論家の矜持を感じた。

 本作を読んで、映画学校時代に教わった初心に戻れたような気がした。筆者もだれかにとっての「おけけパワー中島」でありたいと思う。「神」と呼ばれる書き手になれなかったとしても、筆者のような凡人でも「おけパ」にだったらなれるはずだ。

■杉本穂高
神奈川県厚木市のミニシアター「アミューあつぎ映画.comシネマ」の元支配人。ブログ:「Film Goes With Net」書いてます。他ハフィントン・ポストなどでも映画評を執筆中。

■書籍情報
『私のジャンルに「神」がいます』


著者:真田つづる
出版社:KADOKAWA
価格:本体1,000円+税
出版社サイト

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