『鬼滅の刃』不死川実弥、最大の強みは“優しさ”? 稀血を流し続けた漢が証明したもの

『鬼滅の刃』不死川実弥の最大の強みは“優しさ”?

【再度注意】以下、ネタバレあり

兄弟は決裂したまま戦いに身を投じていく

 実は炭治郎の同期に不死川玄弥という隊士がいるのだが、名字からもわかるように、彼は実弥の弟である。にもかかわらず、なぜか実弥は玄弥に「俺には弟なんていねェ」などといって突き放すのだった。それどころか、「テメェは見た所 何の才覚もねぇから 鬼殺隊辞めろォ」とまでいう。

 ただ、自分に才覚がないということは玄弥のほうでも充分わかっており、だからこそ彼は、「鬼の体の一部を喰うことで短時間の鬼化を可能にする」(注2)という異能を身につけていたのだった。

注2……これは玄弥の優れた咬合力と特殊な消化器官のなせるわざであり、そういう意味では彼に“才覚”はあるのだ(ただし、強い剣士になるために必要な「呼吸法」は使えないので、彼はメインの武器として刀ではなく銃を使う)。

 だが、そのことが実弥をさらに激怒させ、兄弟は決裂したまま、(鬼殺隊と上弦の鬼たちとの最終決戦の場である)「無限城」での戦いに身を投じていくのだった……。

 ちなみに、不死川兄弟には、かつて母親が鬼化して、彼らの弟と妹をすべて殺害してしまったという悲しい過去がある。そしてその母の暴走を止めた――つまり、鬼になった母を殺したのが実弥だったのだが、混乱していた玄弥はその様子を見て、兄に「人殺し!!」といってしまうのだった。のちに何が起きたのかを理解した玄弥は、兄に心から謝りたいと願い、それが彼の鬼殺隊入隊の最大の動機となっている。

 なお、無限城の戦いでは、まず、「霞柱」の時透無一郎が先述の鬼・黒死牟と対決することになるのだが、その場に玄弥も現れる。なんとか無一郎を助けようとして陰から発砲する玄弥だったが、いきなり黒死牟に背後をとられ、両腕を切断、さらには胴を両断されてしまう……。

 「鬼喰い」である玄弥はかろじてそんな状態でも生きながらえてはいたが、冷酷な黒死牟は、首を切ってとどめを刺そうとする。と、その時――どこからか強靭な“風”が吹き、もうひとり、その場に鬼殺隊の剣士が現れるのだった。そう、不死川玄弥の兄・実弥が、弟を助けるために、そこに駆けつけたのだ。実弥はここで、ようやく(読者が待っていた)この言葉をいう。「テメェは本当に どうしようもねぇ“弟”だぜぇ」。そしてまた、こうもいう。「テメェはどっかで所帯持って 家族増やして 爺(じじい)になるまで 生きてりゃあ 良かったんだよ。お袋にしてやれなかった分も 弟や妹にしてやれなかった分も お前が お前の女房や子供を 幸せにすりゃあ 良かっただろうが。そこには絶対に 俺が 鬼なんか来させねぇから…」

 ちなみにこの場面、吾峠呼世晴の画(え)的な演出は冴え渡っており、読者はもちろん、玄弥からも実弥の表情は一切見えないようにあえて描かれている。だが、このとき、間違いなく実弥が優しい“兄の顔”をしているであろうことは、誰の目にも明らかだ。

 黒死牟との死闘はこののち、「岩柱」の悲鳴嶼行冥も交えて、すさまじい展開を見せていくのだが、その結末については、実際に単行本を読まれたい。

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