『同級生』シリーズが“青春BLの金字塔”とされる理由 色褪せることのない、佐条と草壁の恋物語を考察

青春BLの名作『同級生』シリーズの魅力

 「まじめにゆっくり恋をしよう。」

 著者の中村明日美子は、このテーマで同作を描き始めたそうだ。このテーマ通りふたりの恋は、階段を一段一段確かめながらのぼっていくような、緩やかなスピードで進んでいく。相手を好きな気持ちだけで軽やかにのぼっていけるときもあれば、相手の一挙手一投足に戸惑って、その段から動けなくなることもある。そんなふたりの恋愛模様は、どうしようもなくうぶで、爽やかだ。

 またふたりは高校生だ。高校生の頃といえば、大人になりたい、大人でいたいという思いを強く抱く時期ではないだろうか。キス以上のステップに進みたい、恋人の前では余裕のある大人っぽい自分でいたい——。そんなちょっと背伸びした想いが空回りしてしまうふたりの姿に、高校生のリアリティを感じるのだ。

 もどかしいくらい丁寧にゆっくりと育まれていく佐条と草壁の恋愛はいわば、青春恋愛物語の「基本の“キ”」だ。多くの人が青春恋愛モノに期待するであろう要素が詰まっている。ただその中にも、きっと誰もが経験してきたであろう多感な時期の気持ちが織り込まれているので、「あの頃に戻る感覚」も味わえるのだ。

 だからこそ佐条と草壁の恋物語は、いつの時代においてもキラキラと輝きを放ちつづけ、人の心に色褪せず残り続けてきたのだろう。

20歳の佐条と草壁。ふたりが選ぶ道

 高校卒業間近の佐条と草壁を描いた『卒業生』。ふたりはもちろん、周囲のキャラクターたちのその後を描いた『空と原』『O.B』。今回刊行されたシリーズ最新作『blanc(ブラン)』では、高校を卒業して3年たった佐条と草壁の恋愛模様が描かれている。佐条の進学を機に京都と東京間で遠距離恋愛を続けていたふたりだったが、その関係に変化が訪れようとしていた。

 ふたりが高校時代に確かめ合った、「好きだからずっと一緒にいたい」というシンプルな気持ち。ただその想いを叶えるには、物理的な距離や法制度といった乗り越えるべき壁があまりにも大きいことを、20歳をこえ名実ともに大人になったふたりは実感していったのだと思う。

 あまりにも純粋な恋愛をしてきた佐条と草壁の関係がこじれていく様子には、見ていて切ないものがある。ただ「好き」という感情を丁寧に丁寧に育んできた実績を持っているふたりのことだ。きっと彼らなりの幸せの道を見つけ出すに違いない。そんな確信にも近い安心感があるのもまた、『同級生』シリーズが長年愛されている理由なのだと思う。

■クリス
福岡県在住のフリーライター。企業の採用やPRコンテンツ記事を中心に執筆。ブログでは、趣味のアニメや漫画の感想文を書いている。ブログTwitter

■書籍情報
『blanc(ブラン)#1』
中村明日美子 著
価格:本体690円+税
出版社:茜新社
公式サイト

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