『呪術廻戦』主人公の暴力描写は一線を超えた? 競うように過激化する『ジャンプ』バトル漫画

『呪術廻戦』から感じる「死」を描く“覚悟”

 この『呪術廻戦』が「違うステージに入ったな」と感じたのは、13巻の第112話。宿儺が、双子の少女、奈々子と美々子の頭を吹き飛ばした場面を、連載で読んだ時だ。肉体を乗っ取られているとはいえ、主人公の少年がここまで残忍な暴力を披露する姿を読んだ時、この漫画は単純な善悪では測れない世界に足を踏み入れてしまったのではないかと感じた。だが一方で、遅かれ早かれこういった展開を向かえることは、当初から作者の頭の中にはある程度、想定されていたのではないかとも思う。

 改めて物語の序盤をアニメで見直して強く感じたのは、本作が真正面から「死」を描こうとしているということだ。祖父の死を体験した虎杖が呪術師になるのは、呪霊によって殺されるという「正しくない死」を防ぐためだが、その戦いの過程で呪霊や、改造人間(真人によって怪物にされた人間)を祓う行為もまた、相手の命を奪う行為だという現実を本作は隠そうとしない。このような「死」を見せる覚悟があるからこそ、荒唐無稽なバトルを展開しても、本作には地に足のついた手触りが存在する。

 渋谷事変ではそれがより全面にせり出しており、敵も味方もあっけなく命を落とすという、実にシビアな展開となっている。しばらくこの混迷は続きそうで毎週、筆者もドキドキしているのだが、渋谷事変を終えた時に『呪術廻戦』がどうなっているのか、全く想像がつかない。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■書籍情報
『呪術廻戦』(ジャンプ・コミックス)既刊13巻発売中
著者:芥見下々
出版社:集英社
https://www.shonenjump.com/j/rensai/jujutsu.html

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