矢沢あい『下弦の月』は名作か否か? 評価が分かれる難解な物語を解説
単行本派に支持されロングセラーに
「りぼん」本誌では人気が出なかった『下弦の月』だが、目の肥えた読者はこの作品の名作ぶりを決して見逃さなかった。
「りぼん」と矢沢あいの関係を示す面白いデータがある。矢沢は本誌での人気低落とは真逆に、コミックの売上は常にトップクラスであり、そしてそれは「りぼん」の発行部数が激減した後も変わらなかった。
事実、矢沢が祥伝社に『ご近所物語』の続編となる『Paradise Kiss』を提供した時は、作者についてきた読者がコミックを買い支え、単巻あたりの累計発行部数は100万部を超えた。単行本派の読者に支持された事が、後の『NANA』の大ヒットを生んだのは言うまでもない。
『下弦の月』は連載終了から5年を経て、2004年に愛蔵版の上下巻が発売、同年に映画化&ノベライズ化。2013年には文庫化されロングセラーとなる。
「月の引力」と「19年のサイクル」、この意味を紐解きながら読む事で、読後感は何倍にも膨れ上がる。19年後の記憶にも残る、最高の時間をもたらしてくれるだろう。
■井上郁
言語学者、フリーライター。英文学・言語学・メディア記号論を専攻。マンガ・アニメ・ゲームを総合文化研究の俎上に載せ、記号論の観点から考察しています。
■書籍情報
『下弦の月(1)』
矢沢あい 著
価格:408円(税込/電子版)
出版社:集英社
公式サイト