天使なんかじゃない、ママレード・ボーイ、こどものおもちゃ……90年代「りぼん」が教えてくれた生き方
かつて、少女漫画の典型といえば、ピュアなヒロイン。少し意地悪ならライバルがいて、ピンチになると白馬に乗った王子様が助けてくれる。奥ゆかしく心優しいヒロインの健気さに王子様は惹かれ、2人は結ばれてめでたしめでたし……だったと聞いている。
というのも1990年代前半、筆者が手にとっていた漫画雑誌『りぼん』で連載されていた人気作品たちは、その型から外れようとするものだったと記憶しているからだ。
白馬の王子様を待たないヒロインたち
『天使なんかじゃない』(作:矢沢あい)の冴島翠も、『ママレード・ボーイ』(作:吉住渉)の小石川光希も、『あなたとスキャンダル』(作:椎名あゆみ)の高崎友香も、そして『こどものおもちゃ』(作:小花美穂)の倉田紗南も……ヒロインはいずれも勝ち気で、自己主張をハッキリとする性格だった。
もちろん、『姫ちゃんのリボン』(作:水沢めぐみ)、『赤ずきんチャチャ』(作:彩花みん)をはじめとする、魔法少女たちによるファンタジックな世界観の作品もあったが、そのヒロインたちさえ「修行」と称して自己研鑽を続けていく。恋も、友情も、自分自身がしっかり立っていないと、始まらないのだ。
後に想いを通わせる男の子に対しても遠慮なく物申し、対等に喧嘩をする。ときには、傷ついた男の子を守り、幸せを願って奔走することもある。その関係性は「白馬の王子様に幸せにしてもらうお姫様」ではなく、「お互いに支え合うパートナー」と呼ぶにふさわしい。
自分を幸せにしてくれる王子様が現れるのを待つのではなく、自分で自分を幸せにする力をつけていくということ。将来は「誰かのお嫁さん」ではなく、自らが人生の主人公として生きていくのだというメッセージを強く感じる作品が多かったように思う。
そして、きっとこの時代の漫画を読んでいたかつての少女たちは、多くは今30代を生きていることだろう。そして、こんなことを思ってはいないだろうか……「あたしゃ、強くなりすぎちまったよ、トホホ」と。
そんな『ちびまる子ちゃん』(作:さくらももこ)的なマインドもしっかり根付いている人もいるかもしれない。『まゆみ!』(作:田辺真由美)や『へそで茶をわかす』(作:茶畑るり)をはじめとしたギャグ漫画を読みながら、なかなかうまくいかない日常に対して、シュールなツッコミを入れる視点も育まれていった。
少女漫画といえば現実逃避というイメージが強いかも知れないが、あのころの『りぼん』は現実をシビアに見つめる作品が多かった。人生が決して甘くない険しいものだとした上で、それでも笑い飛ばしながら明るく生きていくという“夢”を見せてくれたように思う。